38.聖獣は食べ物の誘惑に弱い(3)

 眉をひそめて爆薬類を収納魔法に戻した。この中ならば爆発は起こらない。収納魔法を会得した際に聞いた説明を信じて、順番に奥へ詰め込んだ。収納魔法はイメージが非常に大切な魔法だ。具体的に大きさを指定して空間を作成するのだが、オレは中途半端な映画の知識を参考にしたため規格外だった。


 まず大きさは無限だと思っていたし、好きなものだけ好きなように取り出せると誤解したのだ。目の前で使ってみせたら、ノアに「これだから異世界人は常識がない」といい意味で感心された。


 ノアが収納から取り出す際、本に栞が挟まっていれば本ごと出てくる。オレは栞だけ、本だけ別々に取り出すことが出来た。以前逃げ回った際にナイフを取り出したように、鞘を残してナイフ本体だけ取り出す方法は『常識外』らしい。


 他の奴ならダイナマイトは1本ずつ仕舞えば、単品で取り出せる。オレのように箱でしまったら、箱ごと出てきてしまうのが普通だった。そこでふと気付く。


「リストを作ればいいじゃん」


 オレって頭いい。自画自賛しながらメモ用手帳を探してリストを作り始めたところで、逆に呆れられてしまった。


「リストもなしに物を入れるなんて」


 また非常識と言う単語が続くのだろう。シフェルの呆れ声に「はいはい、どうせ非常識ですよ」と返しておく。ダイナマイトの数も入れて、本数も管理する。


「武器を含め、今回の遠征に必要なものだけ詰めてください。他のものは預ります」


「なんで?」


「収納魔法の容量を使うと魔力を無駄に消費しますから」


「……え? 魔力使ってるの?」


「「え??」」


 また2人の顔に「非常識.(以下同文)」」って書いてある気がした。


「魔力、使ってる気がしないけど」


「…………そんなはずは」


 ないと言い掛けたシフェルが、荷物の量を確認してから眉をひそめる。何か考え込んだ後に、「これらをもう一度収納しても平気なんですか?」と奇妙な尋ね方をしてきた。


「だって入れて歩いてたぞ。体調不良も魔力酔いもないし」


 常識外と呟きながら、好きなものを持っていっていいと許可を得た。大量の荷物をもう一度数えながら仕舞って、最後にリアムの収納から食べ物を分けてもらう。どうやら着替えのついでに食堂からお菓子やパンを貰ってくれたらしい。


「ありがとう。さすがリアム。オレの好みをばっちり把握してる! いいお嫁さんになれ……」


 そこではたと気付く。オレのお嫁さんになるんだった。真っ赤な顔でぎこちなく隣を確認すると、取り出しかけのパンを、もじもじと指先でパンくずにしながら照れる黒髪美人がいた。


 はい、ご馳走様でした。眼福です。

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