38.聖獣は食べ物の誘惑に弱い(2)

 そう、乾パンと干し肉、ミルクの硬い朝食に飽きたオレが、マナー講師の目を盗んで必死に残したパンなのだ。収納魔法が出来るようになってから、こつこつと集めてきたのに!! 今度の戦場で食べる予定だったのに!!


『良い匂いが悪い』


 怒りの感情をむき出しにヒジリへ近づけば、殺気を感じた黒豹が飛び退いた。咄嗟に迎撃姿勢をとるあたり、やはり獣よ……じゃなくて、反省しろ!


「……シフェル、キヨの食事はそんなに粗末なのか?」


 オレの必死の剣幕に驚いたリアムが、不安そうに側近の近衛騎士に尋ねる。どう答えたものか困っているシフェルが、綺麗なオブラートに包んで伝えた。


「彼の朝食は、慣れさせるための戦場食でした……成長期のキヨには物足りなかったようですね」


 夕食のパンをちょろまかして保管した白パン袋だと思わなかったらしい。無造作にオレが取り出したこともあり、疑問は持たなかったんだろう。


 今にもヒジリに飛び掛りそうなオレの首根っこを掴んで、シフェルが淡々と言い聞かせる。


「白パンなら差し上げますから、聖獣殿を攻撃するのはやめてください」(情けない)


 整った顔に本音が溢れ出している。


「……2袋」


「わかりました」


 溜め息をついたシフェルが約束したところで、緊張を緩めたヒジリが擦り寄ってきた。こうしてみると、本当に猫そっくりだ。実家の猫もオレのおやつを齧ったあと、よくこうやって詫びを入れた。


「次同じことしたらお仕置きだぞ」


 ……なぜ嬉しそうに尻尾が揺れる? まあ、奇妙なフラグは無視して、散らばった収納の中身を確認した。残りに危険そうな物は見当たらない。


「不要なものは?」


「置いたままにしてもらえば、こちらで処分します」


 リアムは興味深々で、山になった火薬の信管を引っ張り出した。途中で何かに引っかかったケーブルに気付き、首をかしげて無造作に引き抜こうとする。


「リアム、そっと置いて。両手を離すんだ」


 嫌な予感がして忠告した。ぴたりと動きを止めたリアムが、ゆっくり手を離す。大声で叫ばなかったことが幸いし、放り出されずに済んだ。


「ここら辺が、もやもやする」


 曖昧な表現になってしまうが、ほかに表現の方法がわからないオレはリアムをまず遠ざけた。それから彼女が掴んだケーブルが引っかかっていた上の箱をどかす。中身はダイナマイトでした。これもヴィリから渡された記憶がある。なぜか箱に数十本詰め込まれたダイナマイトは、上をより合わせてあった。


 火花が散ったら全部爆発する危険がある。とりあえずバラしておく。


「危ねっ」

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