47.信頼と信用(3)
彼女は手当たり次第に物が投げ飛ばされた部屋の状況を確かめると、すぐに手近なクッションから拾い始める。
「ただいま、リアム」
ぎゅっと抱き着いて耳元で告げれば、真っ赤な頬で「おかえり」と返る。こわごわ回された腕が、オレの背中に触れた。ほんの少し距離を開けて、顔を見ながら額同士を当てる。
「……嫌いになるか?」
物に八つ当たりした状況だろうか。不安そうなリアムに「いいや」と否定した。くっついたまま歩いて、侍女が片付けたソファに座る。ぎゅっと服を掴んで離さないリアムの黒髪を撫でて、落ち着くのを待った。空気を読むどころか自身が空気と化したレイルは、少し離れた壁際に立っている。
「落ち着いた?」
頷くリアムがようやく手を離して息をついた。興奮状態が落ち着くと、散らかした室内が気になるらしい。片付ける侍女に「すまない」と謝罪した。にっこり笑った彼女は首を横に振り、そのまま片づけを続行する。
「お茶はオレが淹れるな。レイルもこっちへ」
手持ち無沙汰のレイルも呼んで、手早く取り出したポットに茶葉をいれる。まずい場面を見られたと思ったのか、リアムは無言だった。だから一方的に話しかける。
「この茶葉覚えてる? オレが美味しいって褒めたら、リアムが2缶くれただろ。あの残りだ。1缶はクッキーにしちゃったし、これで終わりかな。また強請ったらくれる?」
茶葉に、魔法で沸かしたお湯を注いでいく。ふわりと慣れた紅茶の香りが広がると、ようやくリアムも表情が和らいできた。
「ああ、幾らでも用意する」
「よかった。リアムの紅茶美味しいんだもん」
リアムが不機嫌になった原因に触れず、当たり障りのない会話を続ける。昔のオレなら、拗ねた奴なんて放置した。面倒だし、自分も巻き込まれて気分を害する必要はないと思うから。でもリアムの機嫌を取ろうと思ったとき、拗ねた彼女が顔を見せてくれたとき、ただ可愛いとしか感じなかった。
同じ場面がもう一度あっても、きっと同じように行動すると思う。紅茶をそれぞれのカップに注いで、先に味見をする。いつもの味だ。オレが口をつけたのをみて、リアムも紅茶を一口飲む。
「実はね、聖獣がもう1匹……1頭? 増えたんだ」
「……セイ、いま……なんと?」
「見たほうが早いよね。ヒジリ、ブラウ」
名を呼ぶと2匹が影から現れる。本当に自分の影から出入り出来るんだと感心しながら振り返ると、リアムは蒼い瞳を輝かせていた。嬉しそうに近づいて、彼らの前にしゃがむ。
「本当に青い猫がいるのだな」
『いますよ。やっと見つけたので契約しました』
巨大な猫だったブラウは、普通猫より少し大きいくらいまで縮んでいた。これが
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