47.信頼と信用(2)

「緊急用で2年前に預ったんだが、まさか本当に使うなんてな~」


 苦笑いするレイルの言葉に、オレは引っかかった。2年前にシフェルは宮殿へ自由に出入りできるカードを用意してレイルに預けた。つまり、リアムはそれ以前から危険に晒されてきたことを意味する。万が一のとき、シフェルが助けられる距離にいないとき、代わりに助ける契約を交わしたのだろう。


 シフェルの用心深さと、レイルを信頼したリアム達の状況が、オレの心に刺さった。内部の人間を誰も信用できず、契約で裏切らないと確信できる外部の他人を選ぶしかない。どれだけ切羽詰った状況なのか。


 立ちはだかる騎士をすべて退け、ようやく皇帝の私室にたどり着く。


「キヨ様! レイルさん……皇帝陛下が」


 侍女が両手を組んでそわそわしている。私室前の廊下で祈るようにしながら扉を見ていた彼女は、慌ててオレに駆け寄った。


「どうしたの?」


 落ち着いて普段の声を装って尋ねる。


「メッツァラ公爵やラシーラ侯爵が、陛下に釣り書きをお見せになりました。すると陛下が機嫌を損ねられ、彼らを部屋から追い出したのです」


 予想していたより悪くない状況に、ほっと息がこぼれた。中で彼らと言い争っているなら大変だが、一人で閉じこもった状況なら安心だ。大きく息を吐いて、侍女に笑みを向けた。


「オレが声をかけるから」


「よろしくお願いいたします」


 リアムにワンピースを着せてくれた彼女は、心配そうな顔を少しだけ微笑みに変える。ドアをノックすると、中から叫び声が返ってきた。同時にドアに何かを投げつけたらしい。緊急時以外は鍵をかけない扉が、荒っぽい扱いに抗議の音を立てた。


「誰も入るな!」


「リアム、オレだけど……」


 ばたばたと駆け寄る足音と、何かを放り出す気配がして……そっと扉が開いた。開かずの間になっていた皇帝の私室から、ちらりと部屋の主が顔を見せる。


「セイ?」


「うん、部屋に入れてよ」


「……でも」


 ちらりと視線を後ろに向けて躊躇うから、なんだかおかしくなって笑ってしまう。くすくす笑いながら、覗いているリアムの頬に触れた。


「お願い。散らかしててもいいから」


 まだ迷っているリアムだが、頬に当てた手に擦り寄る姿は猫のようだ。


「リアムが嫌なら帰るよ?」


 譲歩するように見せかけて誘導すると、焦ったリアムが扉を開いてくれた。1人がようやく通れる程度の隙間から、まずオレが入る。レイル、さらに侍女が続いた。

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