287.言いたい奴には言わせとけ(3)
ぱっと整列した傭兵の状態を確認していく。ジークムンドの号令ひとつで外に並んだ彼らは、かすり傷程度しかなかった。1人だけ剣で刺された奴がいるが、絆創膏もどきで治る程度で良かったよ。もし死者が出てたら、騎士団壊滅の危機だったぞ。
「オレの実家となる北の国で、貴族連中が王族の資産を持ち逃げした。リストに名のあるすべての貴族を捕まえ、彼らの財産を差し押さえることが仕事だ。当然だけど、普段の仕事とは別にボーナスが出る!」
ボーナスの額を奮発してやり、傭兵達の士気を高める。テーブルで契約書を作っていたベルナルドの前に並んだ連中が、次々と署名した。血の臭いがする奴も並んでるんだが?
「ちょい待て、お前は腹を刺されたんじゃなかったか?」
「薄皮一枚っすよ。ボーナス欲しいっす!! 妹が結婚するんすよね」
金が必要だと告げる青年の顔色をじっくり確認し、迷った末、触れたままの腕経由で治癒した。理由が家族のためなら協力してやりたいし、兄としての面目も理解できる。何より、ケガを隠して参加されたら危ないからな。
「あ、ありがとうございやす! ボス」
「じゃあ、転移するぞ。点呼」
ジークムンドから数を数えていき、10人で後ろの段になる。2列、3列、4列と端数……43人ね。転移の上限にチャレンジしなくて済んだな。
「ボス、食い物は?」
「用意する。非常食だけ携帯しとけ」
収納魔法が使えない奴も多い。というか、使える方が珍しい。リュックにポーチ、肩掛け鞄もいるが……それぞれに仕事道具を入れたカバンを手に集まった。非常食セットは普段から携帯している。不測の事態で生き残るための知恵らしい。オレも最初の頃は言い聞かされたっけ。
懐かしく思い出しながら、そういやジャック達の引き上げ時期を考えないといけないことに気づいた。東の国に派遣しっぱなしだ。北の国が一段落したら、すぐに向かうか。
先程テーブルに置いた絆創膏もどきは2枚しか使われておらず、溜め息をついて全員の手に1枚ずつ握らせた。大急ぎでカバンに詰めていく。
「いいか? ケガしたら使え! 道具を惜しむな。命は買えないけど、道具はいくらでも買える。順位を間違うなよ」
「「「了解」」」
「「「「あいよ」」」
騎士団のような揃った敬礼ではなく個々に返事を寄越す。これが居心地良さの理由だろうな。オレは規律正しい生活が苦手なんだと思う。だから日本での生活が馴染まなくて引きこもった。そう言う意味で、なんでもフランクでいい加減なコイツらと一緒は肩肘張らずに済む。
「転移魔法陣の中に全員入れ。魔力の消費はオレがするから、勝手に魔力を流すなよ」
転移魔法陣に見えるけど、実際のところ魔族召喚のゲーム魔法陣だからいい加減だ。勝手に魔力を流しても発動しない。一応注意しておくと、信憑性が上がるかな? 程度の警告だった。ベルナルドとオレも乗ったところで、ぼんやり光る魔法陣の周囲に結界を張る。誰かこぼれ落ちると事件だ。
「それじゃ……」
行くぞ。そう口にする寸前、魔法陣に向かって何かが撃ち込まれた。矢か銃弾か、確認する前に転移魔法が動き出す。
「くそっ、ヒジリかブラウ。探ってくれ。犯人は殺すなよ」
『承知した』
あ、この声はヒジリだ。安心、安全、確実がモットーの黒豹の声に、オレは気兼ねなく転移した。
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