287.言いたい奴には言わせとけ(4)
出迎えのシフェル達の驚いた顔に、オレは後で説明すると笑う。それから回収すべき財産や貴族の似顔絵付き年鑑を、傭兵達に手渡した。
「わかってると思うが、契約遵守! ケガは可能な限り避けて、犯人は捕獲だ。どうしても無理なら死体の回収も止むなし! 状況次第でボーナスのさらなる追加がある」
「「「「おう」」」」
「気前いいな、ボス」
ジークムンドが揉み手で笑う。熊というより、前科数十の凶悪犯みたいだぞ。王都の地図を見せた途端、彼らの表情が険しくなった。真剣にルートを検討し、人数を割り振っていく。手柄は全員分を集めて、後で頭数で割ることに決まった。功を焦って無理したら、逃がす可能性もあるし、いい案だと思う。
勢いよく散開していく彼らを見送り、オレは待ちかねていたシフェルに向き直った。
「どう言うことですか? 皇帝陛下の命令書を、騎士団が無視したとでも……」
「だから説明するよ。ひとまずお茶の用意して」
実家である気軽さも手伝い、そう告げるとシンが手配を受け持った。ヴィオラは、リアムやパウラと中でお茶を楽しんでいるらしい。そこへ合流する形となった。歩きながら、手短に説明する。ベルナルドが双方の状況を客観的に分析して付け加えたことで、シフェルの口元に笑みが浮かんだ。
これ、危険な信号だな。
「処分は任せていただきましょう」
「当然、騎士団長の領分を侵したりしないさ。オレは補償して貰えば構わないから」
「ええ、騎士達の給与を削って払いますとも」
げっ、給料カットか。騎士は貴族出身者ばかりだし、生活に困ることはないだろ。遊ぶ金が減る程度の話なら、別に問題ないな。頷くオレの後ろで、ベルナルドが被害状況を事細かに報告していた。穏やかに微笑んでいるような顔で、鬼のシフェルが動き出す。きっと騎士達は地獄を見るだろう。
「早朝訓練に飛び込んでジークに殴られた奴、後で貸してくれ」
「構いませんが?」
「早朝訓練が好きみたいだからな、本当の訓練に参加させてやるよ」
どうせ帰ったら毎日行うのだ。そこに動きの鈍い騎士が1人加わったところで、害はない。リタイヤしない程度に、遊んでやろう。にっこり笑って無邪気さを装うと、ベルナルドがごほんと咳をした。
「我が君が手を下すとなりますと、騎士の命の保証ができませんな」
「やだな、ベルナルド。オレは穏やかで協調性豊かな日本人だぞ。相手を潰すわけないだろ」
潰さずに使い倒すくらいはするけど。言葉にしない部分を感じ取ったシンが「当然だ」と頷き、シフェルも同意する。この場で反対意見が出ない時点で、もう決定事項だった。
お茶会は温室の中で行われているらしい。ガラスの扉を開いて入ると、からりとしていた。想像した密林の高温多湿ではなく、ハワイ辺りのからっとした心地よさだ。そりゃそうか、王族がお茶をする場所に選ぶくらいだから、居心地の良さは大切だろう。
「リアム、ただいま」
「おかえり、セイは余の……じゃなくて、私の隣に座って」
可愛いなぁ、意図せず漏れた言葉にリアムが赤面する。先程とドレスが違うんだけど? 挨拶用に桜色のドレスを着てたのに、今はオレンジと黄色の中間色だった。上質の絹で、つるんとしている。
「着替えたの? これも似合うね」
さらりと褒める。本音だから飾らなくても出てきた。頬を赤く染めたリアムの向こう側にパウラ、ヴィオラと並ぶ。じいやはお茶のポットを手に給仕を始め、侍女達を追い払ってしまった。
円卓は順位がないから好ましいと聞いたことがある。実際、上座の位置が分からないけど……きっとリアムの位置が上座か。皇帝陛下だし。
オレの隣からシン、シフェル、クリスティーン、ベルナルド、ひとつ開けて、ヴィオラ……あれ?
「レイルはどうしたの」
「貴族を一網打尽にすると息巻いて出ていったぞ」
ダメ親父の所為で苦労したけど、元を辿れば焚きつけた貴族の所為だ。やっつけたい気持ちは分かるので、頷いた。
「それで、セイが傭兵を連れて来た理由を教えてくれないか?」
リアムに切り出され、シフェルを睨むが首を横に振る。誰だ、漏らした奴……今すぐ名乗り出れば、軽く首を絞めるくらいで勘弁してやるぞ。だが全員が首を振った。その足元で毛玉が発言する。
『僕ぅ、気の利く猫だからさ』
お、ま、え、か!?
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