287.言いたい奴には言わせとけ(5)
まず青猫の尻尾を掴み、全力で引っ張る。当然本体を踏みつけにすることは忘れない。
「一度死ねっ、死んでこい!!」
『やめてぇ、死んだら来れないぃ』
思ったより丈夫な尻尾は千切れることなく、気が済んだところで離してやった。顔を引き攣らせる善良な人は少なく、大半は「あの猫やらかしたな」程度の感想でお茶を飲む。
「キヨ様、お茶をどうぞ」
「ありがとう、じいや」
気が利くね、冷たいお茶を飲み干して一息ついた。ブラウの所為で余計な工程が増えたじゃないか。
「騎士じゃなくて傭兵を連れてきた理由だっけ。簡単さ、騎士が信用できない」
騎士団長を務めるシフェルや副団長のクリスティーンには悪いけど、他に言葉の選びようがなかった。仕事で組むのに必要なのは信用、友人なら信頼だ。
「信用、ですか」
先に少しベルナルドから話を聞いたシフェルは、複雑そうな顔で頷く。納得できる部分もあるんだろう。事情を知らなければ、クリスティーンのように不快さを表情に出したと思う。
「そう。仕事は相手の人柄の評価はいらないけど、任せた仕事を遂行してくれるかどうかの判断が重要だ。だからオレが死地を潜り抜けた際の仲間である傭兵に、ちゃちなプライドを振り翳して攻撃するような騎士は要らない」
言い切ったオレの後ろから、ベルナルドが淡々と状況を説明し始めた。その内容の客観性は折り紙付きだ。何しろ感情を一切出さず、事実だけを並べたんだから。元将軍だし、報告は得意なんだろう。
「我が国の騎士団がそのような……」
申し訳なさそうなリアムに、オレは肩をすくめた。
「ジークの話だとね、オレの悪口を言ってたそうだ。聞こえるように。それが傭兵達の感情を苛立たせた。だけど彼らはオレの立場を考えて、怒りを飲んだ。契約じゃないってのにな。でも騎士団は貴族の坊ちゃんの集まりだ。我慢なんて程遠い……というわけで、オレはリアムのお婿さんになっても、身の回りには傭兵を置くつもり」
彼らの雇用を守ると約束した。それがなくても、信頼できる奴らに守られたい。最強でもチートでも、立場上必要な護衛なら命を預けられる連中に頼みたかった。
「リアムが負担に思うことはないんだ。連中はシフェルがきっちり再教育して辺境へ飛ばしてくれるだろうし。オレは気楽で堅苦しくない護衛を側におけるだろ? そう考えたら今回の騒動も悪くないさ」
「でもセイが悪く言われたのは許せない」
リアムが怒ってくれるのは本当に嬉しい。シフェルやクリスティーン、ベルナルドも怒りを露わにしていた。飄々と他人事の顔でクッキーを食べるパウラだって、その尖った唇はなんだ? お嬢様らしくないぞ。じいやは読めない顔をしているが、ポットにヒビ入ってるし。シンは怒り過ぎて過呼吸になり、ヴィオラに乱暴な蘇生を受けていた。
「言いたい奴には言わせとけばいい、オレは理解してくれる少数の人と付き合うだけだ」
女皇帝の配偶者に、広い交友関係はいらないと思うんだよ。そう茶化して、焼き菓子をリアムの口に運ぶ。咀嚼する彼女の頬を突いて、笑顔を促した。
「ほら、そんな顔しても美人なだけだぞ」
美人が台無しになんてならない。どんな顔でも美人だからな。くすくす笑ったパウラに釣られ、リアムも頬を緩ませた。
「騎士団はシフェルが締めて、ベルナルドが性根を叩き直すとして――リアム、ちょっと東の国を見に行かない?」
「ダメで「行く!!」
遮ろうとしたシフェルに被せたリアムは、悪い顔をしている。皇帝陛下としての傲慢さを示すように顎を上げ、シフェルを見下ろした。
「私が行くと決めた」
「……承知しました」
これでよし! 明日から、楽しい傭兵回収と獣人国の建国だ。面倒な集金を他人任せにして、オレは満面の笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます