167.東と南が攻めてくる? あっそう(1)

 物騒なお茶会を終えて解散した部屋に、ひょっこり顔を見せたのは義兄シンだ。貴族を引き連れて街中を歩いた彼の後ろには、お土産を大量に運ぶ侍従達がいた。レイルやシフェル達がいない室内で、侍女をのぞけば2人きりだ。同性の友人同士という見た目なので、問題なく一緒に過ごしていた。


 見覚えのある顔が混じっていて、名を呼んで声をかけた。ほかにも数人、名前を知ってる人達の名前を口にする。知らない人はこの際だから覚えてしまおうと名乗ってもらった。リアムの周囲にいる人の名前は、確実に覚えておきたい。


「あ、セバスさん。ありがとう」


 顔見知りの執事も、荷物を落としそうになった侍従を見かねて手伝ってくれたらしい。お土産を受け取って、リアムの前に積んでみる。屋台の食べ物から宝飾品、布で出来た袋、巨大な箱は空だった。脈絡のない土産品を開けて覗く繰り返しに疲れた頃、シンが靴をくれる。


「ん? 靴、いやサンダル?」


 つま先部分や踵がない靴って、サンダル扱いでいいのかな。着脱が簡単な靴は、貴族階級ではあまり見かけない。前にご令嬢の足元が涼し気なサンダルだったけど、紐でぎっちぎちにひざ下まで縛ってあった。あの編み上げは痛そうだし、歩くのも大変そう。


「これなら歩きやすいだろう?」


 赤と青のサンダルは多少サイズが違っていて、シンの足元は濃茶のサンダルを履いている。あれを思い出した。学校の便所サンダル……ごめん、口にしないから許してほしい。でも一番理解しやすい形の表現が便所サンダルだった。


 リアムが丁寧にシンへ礼を述べ、屋台の買い食いの串焼きは侍女が用意した皿に乗せられる。


「これはオレとリアムでいいの?」


「ああ、室内で履くなら問題ないし、民の間で流行っていると聞いた」


「ありがとう、お兄ちゃん」


「どういたしまして」


 お兄ちゃん呼びにご機嫌のシンに笑顔を振りまいてから、リアムの足元に膝をついた。室内履きをそっと足から脱がせて、白い足に赤いサンダルを履かせる。両足とも履かせてみたら、立ち上がって嬉しそうに笑ってくれた。すぐにオレも青いサンダルに足を通す。


「歩きやすい」


「思ったより軽い」


 互いに感想を言い合いながら部屋の中を歩き回る。微笑ましそうに椅子に座ってオレ達を見守るシンが、オレを手招いた。素直に近づくと、膝を叩いてここに座れという。リアムの前で子供っぽくね? 眉をひそめるものの、諦めないシンに負けて膝の上に座った。


「キヨも皇帝陛下も……本当に結婚するのか?」

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