167.東と南が攻めてくる? あっそう(2)

「当然じゃん」


「結婚したい」


 即答した子供達に、シンはふわりと微笑んだ。元から美丈夫ッて感じのハンサムだが、こうして柔らかい表情をすると雰囲気が変わる。きりっとした王子様から、ヤンデレ兄にジョブチェンジだ。後ろで一つに結んだオレの白金の毛先を指で弄びながら、シンは少し迷う様子を見せた。


 言うか黙るか、選択に要した時間は大して長くない。


「この世界は不安定だ。5つあった国が今は3つ……南と東がひとつになる」


 その情報に目を見開いたのはリアムだ。彼女を不安にさせない意味でも、まだ言わずにいた。レイルから情報はもらっている。シンの情報源もレイルだろうか、北の国にも情報関連の部署があればそこかも。どっちにしても情報だった。


 シフェルやウルスラも兆候は気づいている。だから突然「東と南を平定すれば安心して」なんて口にしたんだろう。今まで、最大規模の勢力を誇る中央の国が動かなかった。不動の巨大国家に周囲の小国がそれぞれに攻める形が続いて、それが逆に世界を安定させる状況を作る。


 オレがこの世界に放り込まれたことで、一気に勢力図が変わった。中央の国が西の国の王族を排除して属国として従える。北の国は貴族の暴走で、中央にケンカを売って敗北した。同盟国という形に落ち着いたのは、オレに王子の地位を与えた国が滅びれば不都合しかないから。


 王太子シンがいる国なら、オレが跡継ぎになることはない。北の国をシンが継ぎ、オレは次男だから国を出て中央で立身出世――皇帝陛下のお婿さん――する。完璧な計画だった。だが、完璧だと思ったのはオレの側だけだ。


 中央の国は大量の肩書を持つオレを確保して安泰だが、南や東の国は震えたことだろう。異世界人が一騎当千の働きをするのは、どの時代もあったことらしい。だからこそ捕まって解剖されたり、人体実験された時期があるのだ。


 この世界と己がいた世界の差異に気づいて知識や魔力を行使する前に捕えれば、異世界人もただの人間だ。カミサマが膨大な魔力を持たせても、特殊な属性を与えても、使い方を知らない力は発現しない。そのため、オレのようにファンタジー知識があって魔法に憧れるガキを選んで放り込んだ。


 今度こそ、世界の犠牲にされないために。新しい知識で世界を改革するように。オレはこの世界に投げ込まれた起爆剤であり、豊かな今後の実りのための肥料なのだろう。


「また……戦うのか?」

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