167.東と南が攻めてくる? あっそう(3)

 不安そうなリアムに、シンは隠すことなく頷いた。バレてしまう嘘をつくのは、オレも好きじゃない。唇を噛んで目を潤ませる彼女に、慌てて膝から飛び降りて駆け寄った。ソファにぺたんと座ったリアムは小さくて、肩も細くて頼りない。


 初めて会った時の、玉座で声をかけた面影はなく……ただ愛らしい少女がいるだけ。そう感じることに、少しだけ擽ったい気持ちになった。この感情の変化は、リアムを大切に思うオレの本音はもちろんだけど、彼女が素で接してくれてる証拠だ。


 膝をついて彼女の手を両手で包み込んだ。蒼い瞳が揺れる。


「戦うよ。オレは世界征服なんてどうでもいいけど、リアムを傷つける奴は許さない。東と南がタッグを組んで戦いを挑むなら、それは中央の皇帝の首を狙うってことだろ? だから絶対に勝ってリアムを守るよ」


「……うん」


 頷くけれど、リアムは納得していない。守られるだけで何もできない自分が、安全な場所にいる罪悪感。恋人であるオレが最前線で戦うことへの不安。奪われることへの恐怖。その感情すべてが混じって、言葉にならない。素直な表情が物語るリアムの気持ちを、笑顔で下から覗いた。


「ねえ、オレをみて」


 恐る恐る視線を合わせるリアムへ、オレはにっこりと満面の笑みを作る。絶対に気づかれるな、戦いへの不安も恐怖もかき消せ。欠片だって見せてやるもんか。オレはカッコイイと惚れられるヒーローでいたいんだから――それが幻想であっても。


「忘れてるんじゃないか? オレは聖獣4匹を従える、ドラゴン殺しの英雄だぞ。銃弾を防ぐ結界だってあるから、傷ひとつなく帰ってくる――約束するから」


「安心してくれ。私もキヨを守るため、出兵する」


「それはない」


「…………え?」


 決意を込めてカッコつけて切り出した兄シンには悪いけど、それは無理。同盟国の援軍はこの世界だと当然だろうけど、次期国王陛下が出てきちゃダメだろ。万が一にでも矢が刺さったり、弾が当たったらどうすんのさ。顰めっ面で不満を表明するシンに、リアムがくすくす笑い出した。


「リアムは笑ってる方が可愛いよ。お兄ちゃんは北の国を守ってもらう必要があるから、動かないで。北と西の兵力を纏めて、侵入してくる敵国の兵に対処するのが役目だ。防衛ラインはお願いするけど、他国へ攻め込む特攻部隊はオレと部下の傭兵に任せてもらう」


 言い切ったオレに、シンは複雑そうな顔で溜め息をついた。

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