104.自動翻訳は便利だがバグる(2)
「テレビ見てた時に気になって調べたんだよな、スマホで」
テレビとスマホは翻訳されなかったらしい。この世界にないから仕方ない。首をかしげるシフェルとウルスラに愛想笑いをして誤魔化し、隣のリアムに
「明日、クッキー焼くから厨房借りる」
「伝えておきます」
常に事前申請が必要なのは面倒くさいが、監視も兼ねているのだ。オレが作る工程を調理師と魔術師が眺めて検分し、危険がないと判断してからじゃないとリアムに渡せない。かつてリアムの兄が殺された時、毒を盛ったのが恋人だった経緯を聞いたので、まあ当然の措置と納得した。
オレがシフェルの立場でも監視を命令すると思うし。異世界人にとって危険じゃない食べ物が、この世界では危険なことも想定しなければならないのだ。近くに詳しい人がいて尋ねてから使えるなら、オレも安心できた。
「博識だと思うんならさ、オレのさっきの案を真剣に検討してよ」
「孤児院の創設ですね」
ウルスラが考えながら頷いた。子供は国の財産だという考え方が浸透すれば、この世界ももっと優しくなる。オレは自分のことだけ考えるような生き汚いガキだけど、この世界で生きていくと決めた。どうせなら残酷で厳しい世界より、優しくて甘い世界がいい。
親のスネを齧るニートの考え方ってのも、時には悪くないだろ。何しろ楽して生きる方法に関してはエキスパートだからな! 威張れないけど。
「……捕虜の扱いは難しいですね。野放しにできません」
いきなり全員野放しは無理だろう。ここは揉めると気づいていたので、妥協案を提示してみる。
「平民の捕虜を北の国に送り付ける選択肢はない?」
「確かに面倒は減りますが」
「キヨ、送り返すメリットはあるのか?」
応援するつもりのリアムが援護射撃をしてくれる。にっこり笑ってリアムの唇の端についていた菓子の欠片を指先で拭い、ひょいぱくと自分の口に放り込んだ。照れて赤くなる黒髪美人は眼福です。本当にご馳走様でした。美味しい……シフェルの視線が物理的に刺さってる気がするけど。
「北の国の王太子を捕まえたなら、北の国は西の国みたいに併合するわけだろ。だったら自治領として管理するのが合理的だ。自治領なら食糧問題は勝手に解決してもらえるし、属国なわけだから必要な物は調達できるじゃん」
「クーデターの心配があります。あまり彼らに力を持たせると……」
思った通りの展開に、にやりと意地悪い笑みが浮かんだ。
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