104.自動翻訳は便利だがバグる(1)

「キヨ、自害というていを装って侍女は殺されていたのでしょう」


「うん」


 物騒な話題だが、当事者であるがゆえに避けて通れる道じゃない。シフェルが次に発する言葉に集中して耳を傾けた。オレだけじゃなく、リアムにも関わる話なのだ。


「常に聖獣殿を連れて行動してください。あなたが思うより、ここは伏魔殿ふくまでんですから。身分を盾に何か言われたら、私の名を出すより聖獣殿の立場を理由に逃げてくださいね」


「……ヒジリに頼む」


 連れ歩ける大きさの聖獣の中で、外見的に強そうな黒豹を選んだ。もちろん一番古い付き合いだから慣れてるのもあるけど、他の聖獣だと問題が山積だ。


 ブラウは巨猫になっても猫だから迫力に欠ける。コウコが怒ると火事になりそうで、しかもミニチュア龍は可愛いけど強そうに見えない。同じような理由でチビドラゴンも無理だろう。


「最良の選択です」


 シフェルから見ても同じ結論に至るらしい。隣で黙っていたリアムが、ミニチュア龍のコウコとチビドラゴンのスノーを膝に乗せている。前世界なら悲鳴を上げる女子多発の爬虫類だが、この世界だと聖獣様という肩書に嫌悪感は払拭されるらしい。


「これからあなたは陛下のおそばにいることで、貴族達の羨望と嫉妬を引き寄せます。聖獣の主でありドラゴン殺しの英雄という肩書が、キヨの切り札になるでしょう」


「うん、わかる。異世界人は地位がないもんな」


 異世界人だから化け物扱いされて、迫害される未来だってあるのだ。役に立っている間は平気だと安心して足元をすくわれるようなラノベ展開は御免被る。ここはオレの可愛い黒髪嫁がいる現実なのだから。最悪の展開ゲームオーバーになってもやり直しリセットは出来ない。


 頷きあったところで、ウルスラが戻ってきた。


「侍女の死体が発見されました」


 自動翻訳がどこまで有能かわからないが、「遺体」ではなく「死体」と聞こえた単語に眉をひそめる。遺体ならば身元が判明していて、死体は物体扱いだったはずだ。人格を認めない死体という表現を使ったのは、侍女が罪人だからというより、身元不明の侵入者だったと考えるのが正しいだろう。


「身元不明ってことか」


「どうして、そう思ったのですか?」


 ウルスラがかすれた声で尋ねる。自分の一言でどこまで読まれたかを確かめようとするのは、外交も行う立場の人間として当然だった。だから抵抗なく説明を始める。


「異世界人には自動翻訳がある。オレは死体と聞き取った。前世界で死体は物体、身元が判明した人格ある死亡者は遺体って言い分けるんだ。どう?」


「……キヨヒト殿は意外と博識ですね」

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