103.毒は宮廷のスパイス(3)

 手に触れた袋を引っ張り出す。前にお菓子の材料として受け取ったマシュマロだった。このまま食べるのも味気ないので、収納空間から焼肉用の串を取り出す。魔法で洗浄すると臭いも消えるのって、凄いよな。前世界で魔法が使えたら、チート過ぎて金が貯まりそうな気がした。


 突き刺して、コウコを手招きする。ミニチュア龍のせいか、蛇のような移動はせずに浮遊してきた。水の上を漂うようなイメージだ。コイツら芸が細かいな。


「コウコ、すこしだけ炙って」


 炙るという表現に、表面に焼き目がつけばいいと気づいたコウコが細い息を吐く。温かな空気の後で、オレンジ色の炎がちらちら踊った。


「助かった」


 表面がすこし茶色くなった辺りで、自分が串を避ける。


「熱いよ」


 注意してからリアムに渡した。見たことがないのだろう、目を輝かせて噛み付いたリアムの唇を凝視してしまう。ピンクの唇がやばい。なにがやばいって、とにかく可愛い。触りたいと手を伸ばしかけ、鋭い視線に貫かれて止まった。ギギギと音がしそうなぎこちなさで振り向くと、シフェルとウルスラが睨んでいる。


「すみません」


 思わず謝ってしまう。


「主殿、今のを我も食べたい」


「僕も」


 聖獣達のお強請りに、助かったと視線を逸らす。マシュマロは袋いっぱいある。野営のときに使ったお湯を沸かすすこし小さな鍋にならべ、コウコに頼んだ。


「この表面がさっきの色になるまで炙って」


「わかったわ」


 コウコ自身も興味があるらしく、微妙な力加減をしながら鍋の中に炎を満遍なく吹きかけた。こんがりと焼けたマシュマロから甘い香りがする。


「マシュマロをこんな形で使うのは、異世界の知識ですか?」


 ウルスラの質問に、オレは逆に驚いた。マシュマロって焼いて食べるものだと思ってた。外でバーベキューすると必ず焼いてたから。


「え? どうやって食べてたの?」


「食べずに溶かして飲むことが多いですね」


 シフェルの説明に納得する。カフェオレみたいになるんだっけ? コーヒーみたいに苦い飲み物なら合うのかもしれない。


「オレは焼いて食べてたからな。柔らかくなるし、いい匂いするじゃん。甘さもちょうどいいから、クッキーとかに乗せて炙ったりね」


「それを試そう!」


 女の子らしいというか、甘いものが大好きなリアムが大喜びする。まあ、コウコも炙る加減がわかってきたから、頼めばいくらでも作れそうだけど。


 足元では熱いと騒ぎながら、聖獣達がマシュマロに夢中だった。こんなお手軽調理で乗り切れるなんて、前にきた異世界人はなにを伝えたんだ?


「宰相閣下」


 敬礼した騎士に呼びかけられ、ウルスラが立ち上がった。漏れ聞こえる単語は「侍女」「死」「すでに」など物騒な響きばかり。知らん顔をするリアムだが、シフェルは顎や口元を隠すように手を添えて考え込んだ。

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