229.なあ、おい、知ってるか?(6)

「そう、ですなぁ……」


 難しい案件ですか、そうですか。このまま他人の家の玄関占拠してても平気だろうか。こんなことなら、あの部屋に残ってジャック達に移動してもらえばよかった。後で悔いても遅いのが後悔だっけ。きょろきょろと見回すと、人のよさそうな男性が歩いてきた。


「あの、すみません。ジャックが来るまで待たせていただきたいのですが……」


「ジャック様!? お戻りなのですか!」


 すごい勢いで走っていった。あの人、服装からして屋敷の執事かなんかだよね? 


「今のは、執事ですかな?」


「なんでもいいけどさ、オレらって偉い人じゃん? 玄関に出てきたのはいいけど放置はないよね」


 そりゃ自分達で屋敷から出てきたけど、レイルは王族でベルナルドも前侯爵……オレに至っては聖獣のご主人様なわけ。侍女も通らない玄関ホールで、茫然と立たされてていい肩書じゃないはずだ。


『主殿が軽んじられている……と考えて良いものか』


 ヒジリが物騒な言葉を吐いて唸るので、ここは膨大な魔力を誇るオレの懐ならぬ収納の広さを披露してやろう。黒豹の前に絨毯を引っ張り出す。転がして一気に敷いた。


「我が君、何をなさるのですか」


「くつろげる場所を作る」


 リアムがくれた「お庭で寛ぎのひと時セット」が役に立つ日が来たようだ! 洒落た白いガーデン用テーブルと椅子を取りだす。さすがにこの事態は想定外なのでソファはない。長椅子で寛ぎたいので、次回までに用意しよう。いや、次回があっちゃマズい気がするけど。


 お茶会用のシンプルな椅子だが、背もたれの彫刻がお洒落だ。丸テーブルには専用のクロスがついていて、薄い水色だった。色違いでピンクも用意してある。さらにお茶の準備を始めた。お湯は魔法で沸かすとして、カップはどこだ?


 銀の装飾がついたティーポットとカップのセットを見つけた。こういう時のための収納品リストだ。メモしておいてよかった。


「こら、レイル。手伝え」


 何も言わなくてもベルナルドは動いてるぞ。ごつい指で繊細なカップを扱う姿は、おままごとみたいだった。


「ん? 茶葉があったかも」


 肩を竦めて茶葉の缶を取り出すレイルが机において、当然のように椅子に陣どった。ベルナルドが紅茶の葉を量っている間に、聖獣達も動く。巻き付いたコウコがポットを温め、スノーが机の上で足踏みして水を満たした。ポットを割らないようにしながら、コウコが湯を沸かす。


 振り返ると紅茶のよい香りが漂い始めていた。


「菓子もあるぞ!」


 オレが最後とばかり、収納から焼き菓子を取り出す。ブラウはちゃっかりレイルの膝の上で、喉を撫でられている。そのために小型化した青猫は、焼き菓子に手を伸ばそうとしてレイルに邪魔された。敷いた絨毯の上でヒジリが寝そべる。


「こっちおいで、マロン」


 役割を探して挙動不審なマロンを手招きし、人型になるよう頼んだ。それから紅茶が注がれたカップの前に座らせる。隣に座ったオレが合図するとベルナルドも着座した。これで万全だな!

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