229.なあ、おい、知ってるか?(5)
双子の弟がたどった運命を、彼女はどこまで共有してしまったんだろう。感情だけでも怖かったはずだ。そこから立ち直って、婿を取って子供が出来たなら……すごく幸運なことだよね。昔のオレみたいに引きこもりを選んでもおかしくない状況だもん。
「セシリア……その……」
「そこは、きっぱり謝って話しておいで」
ひらひらと手を振ったオレはさっさと離脱を試みる。ベルナルドは肩を竦めたけどノーコメント、冷やかしそうな奴はいない。安心して義理の妹との旧交を温めてくれたまえ。
部屋を出て廊下を歩きながら、ついてくる聖獣達を眺めた。長生きした分、マロン以外の聖獣もいろんな別れや悲しみを体験してるはず。もちろん嬉しく楽しい記憶も残ってるだろうけど、表に出さないでいられるのって凄いよな。
黒豹ヒジリの尻尾がぺしぺしとオレの尻に当たる。さっさと歩け、そんな雰囲気だけど触る前に力加減を調整するあたりが優しいし。肩にしがみ付いたスノーは襟を上手に使ってバランスを取っている。鱗が肌に触れると冷たいから気遣ってくれたのか。
コウコはお気に入りの筋肉、ベルナルドにぐるぐる巻きだ。あの太い腕は確かに頼りがいがある。マロンは斜め後ろを歩きながらオレの上着の裾を噛んでいた。これは遠慮がちで可愛い。ブラウはさっさと影に入って歩かないけど。
安定の聖獣達の姿に、口元が緩んだ。この子達が幸せなら、国のひとつくらい滅びてもいいんじゃないかな……もう。そう思っちゃう。
後ろをちらりと振り返れば、ジャックがいなくて……それが不思議と嬉しかった。傭兵は孤児ばかりだと聞いてたから、家族と会える奴は幸せなんだ。きっと。もちろん会わない方がいい家族を持ってる場合もあるけど、ジャックは育ちの良さが滲んでたから。
他の傭兵も、ジャックが捨て子や孤児じゃなかったのは気づいてたと思う。にも拘わらず、二つ名持ちになった実力は本物だ。ノアやライアン達が一目置いてた理由はそこかも。
ぼんやり考えながら歩いて廊下を抜けた先で、レイルが煙草を咥えていた。本当に喫煙のために外へ出たのか。何か深い理由や思惑があるのかと勘繰った自分が少し恥ずかしいぞ。
「ジャックは捕まったか?」
「ああ、うん。妹さんが来たよ」
「ふーん」
興味なさそう。
「キヨ様、王族の死体を探しに行くのですか?」
「案内係がいないけど、先に行ってもいいと思う?」
ベルナルドの問いに、逆に問い返してしまった。だってさ、この状況でオレが勝手に動くと叱られそうじゃないか。王侯貴族のやり取りに慣れた元侯爵閣下のご意見が欲しいのだよ。
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