253.お弁当ついてるよ(2)
咄嗟に銃を抜いたが、侍女達は真っ赤な頬を押さえてくねくねと踊っているし、絶句したクリスティーンは固まっている。状況が理解できないんだが? 困ったオレの銃を、リアムがそっと下げさせた。
「彼女達は時々、セイ……じゃなくて、キヨの行動に興奮するんだ」
「はあ」
よく分からないが、襲撃じゃないならいいか。銃をホルダーにしまって、顔を上げるとレイルが腹を抱えて笑ってた。ジークムンドは真っ赤な顔でそっぽ向く有様。何だってんだ? 本当に。
未婚女性がいるテントなので、オレが入る以上入り口を開けておくのがマナーなのだとか。確かに2人きりだと変な噂が出るのが貴族だからな。わかる。侍女がいても、既婚者のクリスティーンがいても、念のためだ。今は美少女リアだからね。皇帝陛下=リアの図を公開した時、難癖つけられたくない。
リアムがまたパンを食べ始め、オレは頬杖をついて彼女を見つめた。すごい幸せ。彼女が手の届くところにいるだけで、生きて呼吸してるだけで幸せなんだな。リア充万歳だ。侍女やクリスティーンもまだ食事中なので、手早くポットを用意してお茶を入れ始める。こっちにきて見つけた緑茶だ。
紅茶のポットなので、全員分一度に入るのがいい。ノアがいればお茶を頼んだんだが、いないものは仕方ない。オレだってそれなりに淹れられるさ。深く考えずにカップに半分ずつ入れ、逆回りでまた注ぎ足す。その所作は周囲の注目を集めていた。
「ん? レイル、いつきたの」
「さっきからいたぞ、お前が気づかなかったんだろ」
「悪い」
リアムしか目に入ってなかった。お茶を全員の前に差し出すと、侍女達が困惑の表情でカップを眺める。
「緑茶はだめ?」
「お茶の種類じゃないと思うぞ」
入り口の柱に寄りかかって、レイルが指摘したのはお茶の淹れ方だった。紅茶の場合、1人分ずつ注ぐ。言われると確かにそうだったかも。
「お茶ってのは上位者から注いでいくもんだ。お前は順番通り入れて戻っただろ? だからお茶のカップの順位がわからなくなったのさ」
上位者に行くべきカップは、最後に注いだ緑茶が混じった。そういうこと? 初めて聞いた作法だけど、そういうの、この世界ならあるかもね。今まで気にして飲んだことなかった。
「気にしないでよ。今は正式な場じゃないし。そもそも緑茶で種類が違うんだから」
そう言われても侍女達は困惑しているので、オレが知るミニ知識を披露しておいた。
「異世界では、緑茶は今のような淹れ方をする。この世界のルールは知らないけど、味を均等にする目的があるんだとさ。薄い時の味、濃い時の味、香り、すべて均等にして、お茶の時は身分関係なく飲む。オレの流儀に従ってよ」
実際には身分関係なくの辺りは、適当だ。おそらくそんなルールはないと思うし、礼儀作法的にも聞いたことない。ただ、こうでも言わないと飲まないだろ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます