253.お弁当ついてるよ(3)

「頂こう」


 最初に決断したのはリアムだ。皇帝陛下の決定なら、他の人は素直に従うよね。全員が一番距離の近いカップを手にして、そっと口を付けた。温度は気を付けたつもりだ。紅茶に比べて低い温度で、冷まさなくても飲める温度をイメージしてみた。


「さっぱりする」


 クリスティーンが驚いたように呟く。そう、脂っこい食べ物の後は、紅茶より緑茶が合うよね。でもって少し濃いめ……は失敗した。蒸らす時間が足りないのか、茶葉が違うのか。オレの知ってる味より薄い。でも彼女達にはちょうど良かったみたい。


 この世界の人は保守的で、隣国の食べ物はあまり口にしない。この辺を統一したら交易が盛んになるんじゃないか? ウルスラに任せよう。それは宰相の仕事で、皇配の仕事じゃないから。オレはね、知識チート使って無双とか夢見てない。リアムのお婿さんになりたいだけだった。


 チートによって得た知識はすべて、ウルスラやシフェルの手柄にしてもらえばいい。オレが注目される必要性はないんだから。その辺はすでに説明済みなので、なんとかしてくれるはずだ。こういう話をすると、レイル辺りは勿体ないと騒ぐかもな~。


「美味しかった」


 リアムのその一言で報われる。左手を素揚げした痛みも忘れたくらい。ヒジリに噛み砕かれた手の痛みも飛んでった気がするよね。うん、気分は大事。


「よかった。リアム……リアに会いたくて急いでたけど、この後はゆっくり旅行して帰ろう」


「嬉しい」


 オレの方が嬉しい。抱き合いたいが侍女とクリスティーンの視線が痛いので、手をわきわきさせたまま我慢。抱き着いたリアムの肩に優しく触れる程度に抑えた。早く正式に婚約して人前でもイチャつきたい。


「旅行先なんだけど、温泉とかある?」


「「温泉とは?」」


 うん? また通じてないのか。屋外にある大きな風呂で、と説明したところで顔を真っ赤にされた。いや、外から丸見えの露天風呂じゃなくて。いや、露天風呂も囲いがあるから。あたふたしながら説明し、ようやく意味が通じた。


「スパのことか」


 スパリゾートって聞いたことある。あれだ、温くてプールみたいな大きさのあれ、だよね。子供の頃連れてってもらったが、オレの望む温泉とは違う気がした。楽しめればいいけどさ。


「スパ……意味は間違ってない」


 なぜ温泉だけ外国語で伝わったんだ? 

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