199.食事の順番は揉める(2)

「「「いただきます」」」


 一斉に食事を始める彼らをながめ、少しだけ手をつける。それから後ろの鍋から専用の器によそい、聖獣達にも与えた。


「ちょっと向こうに行ってくるわ」


「おう? 後でいいんじゃねえか」


「ボスも先に食べろ」


「俺らが後で運んでやるからよ」


 傭兵として厳しい現場で生きてきた彼らにとって、食事の時間は最優先だ。食べられるときに食べ、眠れるときに寝る。当たり前のことで、捕虜は後でいいと暗黙のルールがあった。


 食事なんて捕虜に与える必要はない。そのルールでさえ、彼らはこだわった。だからオレ達と同じタイミングで食べさせるなんて、贅沢だと思ってるのかも。


「あのさ、オレがやるんだからいいじゃん」


 お前らの時間を削ってるわけじゃない。個人的な感傷みたいなもので、他人が腹空かせて羨ましそうによだれ垂らして見てる前で、おいしそうに食べるのが気分悪いだけ。先に食べさせたからって、主従や捕縛された立場が逆転するわけじゃない。


 この世界じゃ生温い考え方だろうけどさ。むっとしたオレの口調に、ジャックがぴたりと食事の手を止めた。


「キヨが食べないなら俺も後だ」


「じゃあ俺も」


 数人がそう言って動き出そうとするから、溜め息をついて座り直した。


「わかった、食べてから行く。それでいい?」


 無言で頷く彼らは、再び食事に手をつける。南の兵と捕虜の分は分けてあるけど、すごい勢いでお代わりが連発された。飢えてる感がすごい。


『主殿、茄子が入っておらぬ』


 前に作った茄子の黒酢炒めを思い出したのか、食べ終えたヒジリが茄子を強請る。言われて思い出すと、茄子を少ししか出してなかった。だって、サラダだと思ったんだもん。炒め物にするなら、紫キャベツもどきも出せばよかった。明日のスープかな。


 ついつい明日の献立を考えながら、聖獣のお代わり専用の大きな皿に乗った炒め物をごそごそ探る。茄子を乗せてやろうと思ったのだが、これってマナー違反だよな。迷い箸? 探り箸? 忘れたけど、祖母にめっちゃ叱られたやつだ。


 偏って乗せてやり、今度はコウコのお代わりから硬いニンジンを除く。ピーマンに似てるけど中身が詰まった野菜を横に避けるブラウの皿に、スノーが手を突っ込んで食べていた。ここは問題なさそうだ。


 スノーは野菜や果物中心なので、肉のスープを残してブラウに分けていた。小さな手で入れ物をひっくり返すのは危ないから……注意して世話を焼く間に、傭兵達は食べ終えたらしい。


「キヨ……なんか、親みたいだな」


『聖獣にとって主人は親も同然よ』


『魔力ももらうし、こうして食事も』


 コウコとスノーが話すのを聞きながら、はっとする。いけね、末っ子の馬忘れた! マロンはまだドラゴンのところで見張りをしてるんだろうか。馬だから足元の草でいいのか? 一応聞いて食事を出すか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る