98.盛大なお出迎え(3)
「すっごくいい。その調子でお願い」
にっこり笑って、空いている左手を振った。コウコは嬉しそうに尻尾を大きく振って、また空を泳ぎ始めた。足元でぶつくさ文句を言う青猫と違い、絶好調だ。
「しっかり歩け、ブラウ。餌やらんぞ」
『僕が餌で言うこと聞くと思ったら……』
「間違いか? じゃあ今夜から飯抜きな」
『やだな、主ぃ。僕は主の僕だよ? 言うこと聞くに決まってるじゃない』
猫はどこまで行っても猫だ。現金なやつで、物欲強くて、我が侭で……でも憎めないのが不思議。
ようやくちゃんと歩き出したブラウが尻尾を立てて歩く。コイツは罰をチラつかせて言うこと聞かせる方が向いてるよな。スノーはまだよくわからないけど、ヒジリは言わなくても察してくれる優秀な片腕だった。
個性が強すぎる聖獣が増えていることは、すでに報告が上がっているのだろう。リアムは興味深そうに肩に乗った白いチビドラゴンを見つめる。
「リアム、スノーじゃなくてオレを見て」
途端に顔を赤くしたリアムが俯く。シフェルとクリスがくすくす笑うので、自分のセリフを反芻してみた。無意識に出た言葉だけど、だからこそ本心だったのか。イケメン以外禁止の口説き文句じゃん?! 恥ずかしくなって赤くなった耳朶を指先で弄る。
「えっと……あの、その……」
前世界でイケメンじゃなかったから、続くカッコいい台詞が見つからない。パニックになった挙句、手を繋いだまま2人で赤い顔をして先を急ぐ。微笑ましいと笑うジャックやノアの声が、擽ったくて恥ずかしくて、さらに首や手まで赤くなった。
『主殿はまた熱か?』
あまりに赤いので心配したヒジリが声をかける。金色の優しい光に、悪いことをしてないのに疾しい気持ちになった。首に頬擦りするスノーが『熱いけど熱とは違う気がします』と余計な実況を入れた。
『(だがイケメンに限る)をやってみたかった、とか』
「お前はアニメの見過ぎ!」
照れを誤魔化す意味も込めて、ブラウの背中を遠慮無く蹴飛ばした。身体を捻ったついでに振り返ると、傭兵達がきちんとついてくる。当たり前なのに、なぜか嬉しくて口元が緩んだ。
レイルに教えてもらった2人の犠牲者以外、欠けた奴はいない。これはオレの功績じゃなくて、2人を喪ったオレのミスだ。予定変更著しい戦場で、なんとか戻ってこられた。彼らを連れ帰ることが出来たのが嬉しい。指揮官としての自覚や責任感なんてわからないけど、こうして彼らの無事な姿を見ると思う。
次は誰も失わないで帰ってこよう。子供だろうがバカにしないで従ってくれた彼らに対して、オレができる唯一の恩返しだから。
噛み締めるように決意を胸に刻んだ。
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