98.盛大なお出迎え(2)
わああぁ!! 周囲の歓声が大きくなり、リアムの声も先を促すジャック達の声も聞こえない。反射的に両耳を押さえると、歩き出したヒジリがリアムの白馬に並んだ。こうしてみると、馬とほぼ同じ大きさのヒジリはかなり大きい。聖獣や魔獣という存在の定義はよくわからないが、前世界の動物より明らかに巨大だった。
「ただいま、リアム」
「おかえり」
叫ばないと聞こえないような歓声の中で、小さく挨拶を交わした。おそらく後ろにいるジャック達にも聞こえない会話は、2人の秘密として胸に染み込む。
皇帝陛下として正装で騎乗した姿は凛々しくて、思わず見惚れてしまった。これで本来の女の子の恰好をすると可愛いんだぞ。反則だろ、こんなカッコいい子をお嫁さんにもらえるなんて幸せすぎる。
自然と頬が緩んで笑顔になる。すっと手を伸ばされ、反射的に握り返した。その手を見せつけるように上に掲げたリアムの行動に、観衆はさらに盛り上がった。ちらりと後ろをみると、転送されてきた傭兵達が驚きの顔を見合わせている。そうだろ、驚くよな〜こんなに歓迎されるなんて。
街道を進むオレ達の後ろに、傭兵達がお行儀良く続いた。きちんと2列で行進するのは、先頭で指示を出すジークムンドのお陰だろう。後ろに伝達され、次々と転移した連中が慌てて整列していた。
帰りの道は自由に歩いていた奴らだから、慌てふためいている。普段のパレードで傭兵に手を振る沿道の人がいなかった事実が透けてみえた。続いて捕虜が転送されて、すぐに先行した傭兵の一部が両側を固める。こっちの作業は慣れていた。
王太子と側近は慣れているのか。人の多さに気圧されることもなく、毅然と顔を上げて歩いてくる。彼らは「殺される」覚悟が出来ているから、最後に見苦しい足掻きをするつもりはないんだろう。北の国の名を汚さぬよう、彼らは胸を張って歩く。その後ろに続く騎士や兵士も俯いているが、取り乱したりしなかった。
立派だと思う。オレだったら泣き喚いて引きずられる事案だぞ。
「リアム、後でお願いがあるんだけど」
手を繋いだまま進む間に、そっと顔を近づける。囁くような小声は聞こえないが、口の動きを読んで繰り返してから頷いた。
『主殿、コウコが……』
コウコ? 空を見上げると、調子に乗ったコウコが炎を吐きまくっている。このままだと街の一部を焼いたりしそうな勢いだ。
「コウコ、すごくカッコいい。もっと威厳たっぷりのもったいぶった感じも見たい」
コウコは褒めて伸ばすタイプだ。下手に叱ると気に病んでしまうから、褒めてから方向性を示した。
『こうかしら?』
口を閉じてひらひら踊るように空中を泳ぐ。長い身体が青い空に美しく映える。これなら聖獣らしい威厳が広まるだろう。
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