284.残るは借金返済とざまぁ(2)

『僕はぁ、ちょっと蹴飛ばしただけ』


 蹴飛ばした先が影なのは間違いないな。オレの足下は墓場かよ。ブラウはくねくねと歩いてきて、ごろんと腹を見せて転がった。くそっ、卑怯だぞ。猫のモフ腹を……無防備に。


 ぎこちなくしゃがんで、手を触れたら終わりだ。もうモフる以外の選択肢がなかった。全力で撫でて、なんとか離脱する。リアムが笑いながら一緒に撫でていた。パウラは混じらないのかと思ったら、青い猫はちょっと……と敬遠された。


 じいやがさっと取り出したブラシで、服についた毛を落としてくれる。悪いね、手間をかけて。


「おや、お早いですな」


 にやにやしながら遅れて入ったアホラ公爵に、国王がぴしゃりと言い渡した。


「すでに伝令を送って10分経つ。遅刻した理由は何か」


「……伝令? 知りませんな」


 惚ける気のようだが、どうでもいい。義父である国王が強気な口調で話したことに、公爵は鼻白んだ顔をした。今まで言いなりの気弱な王と侮ってきたが、巻き返しを図るような態度だ。他国の皇族がいるからだろうと考え、舌打ちした。


 アホラ公爵に従う貴族達は、彼に媚びへつらう。周囲を囲んで、まだ自分達の立場が上だと勘違いしていた。最初から王族は特別で、聖獣の契約者だ。貴族のすげ替えがきく頭と違うのに、どこまでも増長しきっていた。アホラ公爵と目が合ったヴィオラが嫌悪の表情を浮かべたのも気になる。


「へぇ、この国は王族の伝令を無視できる貴族がいるんだ? 知らなかったな。中央の国なら処罰の対象だろ?」


 オレは無邪気さを装って、シフェルを振り返る。大きく頷いた彼のブロンズの髪がさらりと揺れた。


「ええ、もし公爵たる私が陛下に対し同じような受け答えをしたら……そうですね、爵位を降格されても仕方ありません。他国の使者や王侯貴族の前で、主君の顔を潰したのですからね」


 わかってんのか? そのくらい大事件だぞ。と突きつけるつもりが、相手が馬鹿すぎるとスルーされてしまう。他人事のような顔で「はぁ?」と失礼な呻き声を出した。


「他国ではどうか知りませんが、北の国は借金まみれの王族が我々に頭を下げて金を借りる状況……」


「先代の話であろう! そもそも民の救済のために支出した金を、お前達が……」


「お兄ちゃん、落ち着いて」


 思わず反論したシンに、オレがにっこりと笑った。右手の指をひらひらと動かして見せると、合図に気づいたじいやが一礼する。


「ご用意ができました」


「じゃあ、いっちゃおうか」


 ぱちんとオレが指を鳴らし、途端に紺色の毛氈を埋め尽くす量の金貨が現れた。じいやが出した風を装った、オレの軍資金だ。全額出すために、事前にバラしておいて正解だった。やっぱり袋に入った状態じゃ、イマイチ迫力に欠ける。金貨の山が崩れるが、それでも上から注ぎ足した。


 きっちり利息まで払っても足りる額だ。オレの個人資産が尽きるが、何ら問題はない。あとで補填する方法があるからな。それでこそ、ざまぁだろ。


「お前らに借りた王家の借金、これで返済完了だ。さてと……何から始めようか」


 皇族に対する無礼、王家に対する非礼、聖獣を侮ったこともか。過去の悪行をずらりと並べたら、ここにいる全員の首を刎ねても足りないな。事情を知ってそうな家族は対象にして、嘘発見器があれば便利だけど。その部分の判定は、レイルの情報網に任せよう。

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