306.特殊部隊の指揮官になってた
朝一番で向けられた銃口を跳ね除ける。蹴り上げた勢いを利用して、後ろに回転して次のナイフを避けた。ちなみにベッドではなく、食堂の端に並んだソファだ。カレーの痛みを和らげようと飲んだワインのせいで、ベッドまで歩けなかった。
普段ならノア達が運んでくれるんだが、じいやが止めたらしい。少し反省する必要がございますって、聞こえてたから。薄い毛布をかけて寝ていたオレの魔力感知に引っかかった傭兵の攻撃を避けながら、反撃の態勢を整える。普段なら枕の下やベッドの足元にいくつか武器を用意しているが、今日はソファだったので収納が大活躍だった。
ナイフを引き抜いてベルトに差し、飛んで着地した間に銃を抜く。目の前の男をやっつけて、一回転して新人の足をナイフで地面に縫いつけた。悲鳴が上がるが無視……は可哀想なので、絆創膏もどきを投げておく。走り抜ける背中に、お礼の声が掛かった。最近の新人は律儀だ。
ん? いや、違う! 仲間にオレの位置を知らせやがったな! さらに速度を上げたオレは、もう1本取り出したナイフで剣を受け止めた。受け流して、ガタイのいいおっさんと向きを入れ替える。これで狙撃は防げるだろう。
「はい、終了です。時間がないので撤収してください」
じいやの号令で、全員が脱力した。地面を転がったせいで芝と土に汚れたオレは、あっという間に風呂に放り込まれる。髪を洗って乾かし、体を丁寧に磨いて香油を濡られた。どこの貴族令嬢だよ。
淡い金髪がそれなりに光の輪を纏い、顔に塗られた薄化粧が肌に馴染んだ頃。七五三ルックより格段に上質なスーツを渡された。正確にはスーツというより、騎士服っぽい。正装の貴族服ともちょっと違う。飾り物がじゃらじゃらと付いた服に首を傾げた。
「なんだこれ」
「キヨ様は一応、皇帝陛下直属の特殊部隊の指揮官を拝命しております」
いつ? というより、一応って何。ツッコミどころ満載の説明を聞きながら、重い服に袖を通す。刺繍がびっしり入った上質の服は、とにかく重かった。鎧かと思うくらい。
『主殿によう似合う』
惚れ惚れしたと口にするヒジリはご満悦だ。制服の地が黒ベースだからだろう。自分の色を纏う主君に、豹の尻尾は絶好調だった。ブラウは興味なさそうだったが、上着の肩や胸元の飾りに目を光らせた。あれは猫の本能だ、危険だが……まあ、ヒジリに任せよう。
「ヒジリ、ブラウがオレの服を狙ってるぞ」
ぼそっと囁くだけでいい。ブラウは悲鳴を上げながら、右腕を突き上げて足元の影に沈んでいった。あれだろ? 溶鉱炉に落ちていくシュワちゃん。オレもこの辺のメジャー映画くらい網羅してるぜ? 全編じゃないけど。
『ご主人様、ここが僕の色です』
嬉しそうにマロンが指差したのは、飾りの刺繍の色だった。無言で目を細めて眺めていたのは、これを探していたのか。そうだなと同意して頭を撫でる。
『わ、私の色もあります。ほら』
スノーが白い刺繍を指さして興奮する。マロンと手を取り合ってはしゃぎ始めた。
ちなみにコウコは、まだリアムの警護中なので留守だ。勲章のリボンに赤もあるので、まあ問題ないだろう。
「それじゃ迎えにいくか」
北の国御一行様を回収しなくてはならない。明日が婚約式で、今日は公式行事が目白押しだった。早くしないと時間が足りない。
「お待ちください」
椿旅館の女中だった侍女が、オレの髪を手早く結い上げた。簪を刺して位置を確認し、最後に金鎖を絡める。ずんと体が重くなった。また魔力封じの一種か。
「転移後にして欲しかった」
溜め息をつくが、もう時間がない。向こうでそわそわ待ってる義理の家族を思い浮かべ、庭先の芝に魔法陣を描いた。そこでふと気づく。あれ? 行きはオレだけだから、魔法陣いらなくないか?
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