210.根絶やしって食べ物?(2)

 身内だけのテントにしておいてよかった。そうだよ、戦場の厳しい環境を生き抜いた彼らが、同じテント内で起きてるオレに気づかないわけない。人数多い大テントにいたら、全員起こしちゃうとこだった。


「うん、悪い」


 受け取った茶漉しを使い、お玉ですくったお茶をカップに入れる。気づけば無言で並べられたカップは7つもあった。すべてにお茶を注いで、全員が口をつけたところで、サシャとライアンが顔を見合わせてぼやく。


「どうせジャックの話だろ」


「キヨは意外と悩む性質だからな」


『……非常に残念なお知らせがある』


 今まで無言だったヒジリが、ここに至って口を開く。全員の視線が集まる中、のそりと向きを変えた黒豹は最新情報を告げた。


『スノーが東の国と契約を解除したであろう? その方法を、主殿は問わなかったが……あやつ、東の国の王族を根絶やしにしたぞ』


 ――根絶やし。つまり根っこまで絶やしたわけで、それって……どういうことよ。


「根絶やしって、根っこまで絶やす意味の?」


『他の根絶やしは知らぬ』


 肯定されてしまった。視線を向けると、居心地悪そうに全員が逸らす。


 えっと、東の国の王家は誰も残ってない、で合ってる? 


「……くそ、もう死んだのか」


 拳を握って地面に叩きつけたジャックの悔しそうな声に、焦げ茶色の髪を見ながら申し訳なく思う。今回の南の国への遠征計画を話した時、東の国にも足を伸ばすと聞いて期待したんじゃないか? 己の手で弟の仇を取れるかも知れない。傭兵になり武力を手に入れたが、王族に手が届かなくなった。


 ひとつを得ればひとつを失う。だが実家を巻き込んで、宰相の父や優しい義母と妹を巻き込めなかった。だから実家の力を借りずに、他国の侵略という形で、王家に幕を下すことを望んだんだとしたら。


 スノーが勝手にさくっと殺してしまったのは……知らなかったとはいえ、悪いことをした。


「ごめん、スノーが殺っちゃったみたいで」


 さすがにヒジリも死体は蘇らせられないよな。ジャックに殺させてやりたかった。しょんぼり肩を落としたオレに、彼は優しかった。


「いいや、そういう意味じゃなく……お前が悪いんじゃないさ、キヨ。ただ同じ目に合わせてやりたかっただけだ」


 しんみりした空気が広がる空間で、ヒジリが欠伸して付け加えた。


『ならばて、また壊せばよいではないか』


 何をごたごた迷っているのだ。そんな言い草に、オレは眉を寄せる。周囲で気まずそうにお茶を啜る傭兵達も顔を見合わせた。

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