57.我に返ったのに、また囚われる(2)
「ヒ~ジリ~ぃ、ブラウでもいい」
『主殿、奴は必要ない』
『なんで僕はついでなのさ、主』
どちらも別の意味で不満顔の聖獣が飛び出してくる。本当に影から出てくるので、ヒジリのときは影が膨らんで爆発したみたいに見えて面白かった。
「あのさ、赤龍ってどうなった?」
『あれなら返ったぞ』
返った? 帰ったじゃなくて? 言葉のニュアンスがおかしいと気付いたオレに、ヒジリが髭を洗いながら答えた。
『ようやっと正気に返ったでな、近いうちに主殿にお礼にくるそうだ』
「……正気に? やっぱり赤い紐が原因か」
『あの紐はいやな気配がしたよ。僕らは触れないし、触りたくない』
ブラウが目を細くしながらころんと寝転がった。実家の猫そっくりの仕草で、くねくねと誘ってみせる。わかってるさ、あの腹部の柔らかそうな毛皮に誘惑されて手を入れると、蹴り蹴りされてがぶっと噛まれる未来が待ってる。分かってるのに……つい負けて手を入れてしまった。
あざとい、あざとすぎるのに……いつだって猫の誘惑に勝てた試しがない。撫でると柔らかく、気持ちよいと思った瞬間には蹴られて噛まれた。
「痛っ」
『痛いっ、死ぬ、マジで』
なぜかオレよりブラウの叫びが激しい。黒豹に捕獲されて美味しく頂かれる寸前の青猫がいた。牙を立てて噛むので、ブラウが必死にのけぞって脱出を試みる。
「おまえら、本当に仲がいいな~」
嫌がるのを承知で告げると、ブラウを咥えたままヒジリが首を横に振った。あ~あ、痛そう。ヒジリの牙の鋭さを知っているため、想像できる痛みに顔をしかめた。途端にブラウを放り投げたヒジリがぺろりと手を舐める。
「どうしたの?」
『顔をしかめるので、痛いのかと思った』
「ありがとう……優しいヒジリは大好きだ」
ぎゅっと首に手を回して礼を言う。ブラウは治癒能力がないのか、ヒジリだけが傷を治してくれている。今のところ、一番役に立ってくれる部下であり聖獣だった。
ぽんとヒジリに触れて、そのまま寄りかかった。じたばた暴れるブラウの手が触れるが、ここは無視だ。
「我に返ったなら、赤龍がオレを襲う理由はないな」
言った直後に背筋がぞくっとした。もしかして不吉すぎるフラグを立てた……とか?
『襲わないわよ……』
聞いた事のない声の主を探してきょろきょろすると、ヒジリとブラウが同じ方向を見ているのに気付く。視線を追って下を向いて、自分の足元……影に目を凝らした。黒い影が時々もこもこ動く気がするのだ。しかもこう、蛇っぽい鱗が見えたり見えなかったり。
「ヒジリ、もしかしたりする?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます