57.我に返ったのに、また囚われる(3)

『質問の意味が解せぬが、まあ……おそらくは』


 複雑そうな顔で影を睨むヒジリの口に半ば食べられかけるブラウが「どうして僕に聞かないのさ」とじたばた抗議した。だって聞いても無駄そうじゃん? しかも言葉にしたらイジケそうだし。


 緊張にごくりと喉を鳴らした。


「襲わないのに影にいる理由をお伺いしても?」


 なぜか丁寧な言葉になってしまった。ブラウのときと同じで、周囲に赤龍の言葉が通じないとしたら……オレは独り言多いイタイ奴になってしまう。そのためしゃがんで、小声で語りかけた。


『主殿、距離が近くて怖いぞ。守るためには危険に近づかぬようお願いしたい』


 真剣なヒジリの説教に「ごめん」と両手で拝んで謝罪しておく。


「だって攻撃する気なら、もうオレの足とかないと思うんだよね。影から口だけ出して噛まれたら勝てないし」


 それって沼地を歩いてたらワニに噛まれたみたいなホラー映像、いやスプラッタ映像だぞ。逃げようがないだろ。淡々と指摘するオレは、しゃがんで聖獣達と会話しているように見えるらしい。皆が放っておいてくれる。まあ、は間違っていない。


『あたくしは主人をかみ殺す狂犬じゃないわ~、今回の攻撃はあたくしの意思じゃないもの』


 軽い口調で話しかけられ、気軽に「そっか~」と返しそうになった。ちょっとまて、もう契約が済んだってどういう意味だ!? ここの聖獣連中はそろって非常識なのか? それより自分の意思じゃない攻撃も聞き捨てならん。


「あの赤い紐が何か魔法の道具だったのかな? 保管しておけばよかったな」


『僕が回収したよ』


「えらい! ブラウが珍しく仕事した!」


『……失礼じゃない? うっかり紐を切り刻んじゃうかも。ああ、リボンで遊びたくなってきたな~』


 脅しをかけようとしたブラウだが、現在の状況を忘れている。彼はヒジリに噛まれたままだ。念話だから完全に失念しているらしい。


「いいよ、ヒジリ……ぐさっとやっちゃって」


 にやりと笑うオレに、ヒジリもにたりと返した。ぐっと牙に力を入れると、青い猫がじたばた暴れ出した。


『嘘です! 出します! 返しますぅ!!』


 暴れるブラウに満足して、ヒジリにアイコンタクトする。賢い彼はしっかり理解して牙を少しだけ緩めてくれた。


 それにしてもだ。聖獣という生き物は、カミサマ以上に自分勝手な生き物らしい。


 意識がない人間を魔法陣で囲って強制的に契約したり、ヲタ専用セリフを連発で契約させられちゃったり……3度目は『契約済み』ってか。ヒジリの時とパターンがほぼ丸被りだった。カミサマを名乗るあの子に命令でもされたんだろうか。


 戦って叩きのめしたら仲間になる――あ、ゲームで見た『テイム』ってやつか。

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