152.平凡と呼ぶには異常な朝(3)
少し先で3人が一斉に銃口を向けた。結界を張らずに切り抜けるため、地を蹴って飛び上がる。目線より上の敵は狙いにくいのセオリーに従い、彼らの頭上を飛んだ。持っていた銃口を左の男に向け、右手に取り出したナイフで牽制する。
手を挙げて武器を捨てた彼らに笑いかけ、そのまま近くの木の枝に飛びつく。ナイフを収納へ放り込んだ。枝に立ったオレは、後ろで聞こえた物騒な音に首を竦める。撃鉄を上げる音はいつ聞いても首がひやりとした。
「シフェル……?」
降参だと手を挙げたのは、ライフル銃が至近距離で突きつけられたため。ゼロ距離とは言わなくても、かなり近い距離で構えられたら降参だった。
「よく気づきましたね」
「魔力感知、切ってないから」
「だったら近づく前に対処してください」
「はいはい」
叱られながら戻ってきたオレに、傭兵達が口々に声をかけた。
「お疲れ、ボス」
「おはよう。今日の料理当番はボスだろ?」
「じゃあ期待できるな。頼んだぜ」
好き勝手なことを言いながら、泥や葉っぱがついた男たちが肩を叩く。頭をぐしゃぐしゃ撫でられ、乱暴に背中を叩かれた。しょうがねえ奴らだと思いながら、どこか嬉しく感じる自分がいる。こんな仲間、学生時代もいなかったから。
受け入れられた現状が、擽ったい。乱された髪を手で梳きながら、朝食のメニューを考えるのは気分がよかった。
「今日は魚のトマトスープと、キャベツのサラダ……うーん。肉は何があったかな」
保存した食材を思い浮かべながら、オレは調理場へ足を向けた。ついてくる傭兵達が口々に希望のメニューを並べるが、決定権は調理人にあるからな。いろいろな物を食べさせた結果、傭兵の舌が肥えたため贅沢なラインナップが普通になった。
教官としての役目が終わったシフェルがこの場にいる不自然さを見落としたオレは、調理を終えた食事を運びながら驚いて立ちすくむ。ごつい犯罪者を収容した刑務所の食堂みたいな光景に、可憐な皇帝陛下と煌びやかな近衛兵が混じっていた。
「な、なに、してんの?」
「セイが料理を振舞うのであろう? 余も食べたい」
ストレートに要求を伝えられ、熱いスープの鍋を抱えたまま……オレはへらりと顔を笑み崩した。よく料理や掃除は嫁の仕事だと豪語するおっさんが前世界にいたが、正直、オレは己に能力があれば「してあげてたい」尽くす男だ。
もちろんリアムの手料理も食べたいが、彼女が美味しいと食べてくれるなら頑張ってレパートリーも増やすし、調味料の開拓も全力で臨む。異世界のお約束は日本料理によるチートだろう。
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