12.淡い自覚(4)
「キヨヒト、お前がいた異世界はどんな場所だ?」
手ずから茶菓子を取り分ける皇帝陛下のフレンドリーな口調での問いに、空転する脳がなんとか答えを弾き出した。
「科学と呼ばれる技術が発展していて、魔法は一切ないんだ。戦いがない平和な国だったから、普通は銃とか扱わないし……あ、えっと扱わないです」
慌てて取ってつけた敬語に、目を見開いた皇帝が口元を押さえて笑みを浮かべた。花が咲くような微笑とは、こういう表情を指す言葉だろう。
ああ……本当にキレイだ。女性じゃなくても構わないから、傍においてくれないかな。
傍にいて欲しいじゃなくて、傍にいさせて欲しいのだ。少なくとも盾になって敵の攻撃から一度は守ってやれると思う。あ、でも陛下のほうが強いんだっけ。
「敬語は不要だ。
謁見では自分を『余』と称していた。それが今は『俺』――つまり完全プライベートで、しかも多少なりと気を許してくれたってこと?
「魔法も戦いもない世界か……想像できない」
「国はたくさんあって、全部で200くらい。全部が戦争しないわけじゃなく、オレがいた国は戦争がなかったんだ。科学が魔法の代わりに発展してるから、日常生活は便利だったぞ」
苦手な敬語を使わないで済む状況に安心して、ちょっと馴れ馴れしい口調になったかも知れない。嫌われたら……嫌な汗が背を伝った。こういうときの『無礼講』って、本当に無礼だと嫌がられるんだよな。
かつての世界の知識を総動員して、今更ながら顔が引きつる。
「あの……」
言い訳めいた言葉を探すオレに対し、皇帝は軽く返した。
「俺の名は…そうだな。リアムと呼べ」
「リアム……様」
「呼び捨てでいいぞ、俺とお前の年齢はさほど変わらない」
気楽な言葉に頷きかけて、はたと気付いた。子供の外見につられて忘れていたが、前世界で24歳で死んだ筈だ。ならば、自分の方が年が上かもしれない。
「えっと……リアム。オレ、前の世界で24歳だった」
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