12.淡い自覚(3)

 小学生くらいだったか、近所の同級生のお誕生日会に呼ばれたことを思い出す。女の子に何をプレゼントしたらいいか迷い、結局お宝のカブトムシを渡して悲鳴を上げられたんだっけ。


 余計なことまで思い出しながら、振り返った数日間はハードすぎた。もうアクションドラマで24時間戦うやつ観た事あるけど、あれに近いな。正直、どうやってクリアしたのか詳細が霞んでる。





「陛下、お待たせいたしました」


 シフェルが優雅に一礼し、手を引かれていたオレも一緒に頭を下げる。


「気にするな、キヨはこちらへ」


 シフェルと繋いだ右手ではなく、空いた左手を細い指が掴む。指を辿って顔を上げれば、まさかの皇帝陛下だった。侍女かと思ったほど、細く柔らかい手だ。


 引っ張る彼に従えば、当然のように隣の席に座るよう促された。手を離して膝をつくシフェルとの違いに、どうしたらいいか2人の顔を交互に見比べる。


「シフェル、下がっていいぞ」


「はい」


「え?」


 下がっちゃうの? いや、シフェルにいて欲しいんじゃなく、陛下と2人きりの状況に心拍数が上げる。周囲に給仕のお姉さんはいるが、護衛がいなくなっていいのだろうか。


 すでに一度暴走したオレは危険人物指定された筈で、おまけにほぼ初対面だった。


 こんなに大量の宝石や金銀鎖で魔力を封じるくらい警戒していた筈。オレ自身、暴走した際はぼうっとしてよく覚えていない。つまり暴走したら、誰かに止めてもらう必要がありそうだった。


 万が一、いや億が一でも暴走したら、まず陛下が危ない。ついでにオレも危ない。


 毛筋ほども傷つけたら、オレの首は切り離されるか撃ち抜かれる姿しか想像できなかった。きっと始末されてしまう……。


「安心してください。今のあなたに陛下を傷つける実力はありません」


 陛下って――強いんだ。安心する反面、弱いと言われた事実に気付く。複雑な思いをかみ殺して、椅子の上でじっとカップを睨んだ。


 くすくす笑う侍女が目の前のカップに紅茶を注いでいく。琥珀色の温かな紅茶の香りに、どきどきする胸を押さえて深呼吸した。


 言うだけ言うと一礼して踵を返したシフェルを見送り、恐る恐る隣の美人を振り返る。


 艶のある黒髪はさらさらと柔らかそうだった。手入れが行き届いた爪は淡いピンクで、あまり長くない。象牙の肌はシミひとつなく、埋め込まれた瞳の蒼が瞬いた。


 ああ……無理。隣にいるだけで死ねる。

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