172. アレだけど本当にいいの?(3)

 慣れた様子でかまどを作ったヒジリの横で、薪を運んできたスノーが中に放り投げている。チビドラゴン姿だと手先が器用な白竜が薪を積み終えたところに、コウコがふぅと小さなブレスで火をつけた。最近は火加減も完璧で、白米を炊くのを任せられるレベルだ。


 ここまで聖獣が使えると、凄いお得感があるな。夜営のプロになりつつある聖獣達の横で、ブラウがドヤ顔で休憩していた。ひとまず蹴飛ばしておく。


『主、ひどい』


「サボるな。仕事しろ」


 渋々肉を捌き始めた。風魔法が得意なため、宙に獲物を浮かして器用に皮を剥いで切り刻む。やればできるくせに、手を抜く青猫はどこまでも猫科だった。ヒジリの真面目さはどこから来たのだろう。半分わけてやりたい。


『ご主人様、僕は?』


「何が得意?」


 逆に問い返してしまう。マロンはまだ来たばかりで、何が出来るか知らないのだ。ブラウは風、コウコが炎、水はスノーだったし、土を扱うヒジリ。ん? 残るのって、何属性?


『宝石や貴金属を作るのは得意だ』


「うん? アクセサリーを作れるのか」


『材料を作れる』


 アクセサリーを作る彫金とかじゃなくて、物体を作る方らしい。それって調理で役に立つ?


「うーん、マロンは料理したことないでしょ」


『何かを作るのは得意だが、役に立たぬか?』


 しょんぼりするマロンが可哀想になり、何か役割を与えられないかと考えるものの、馬の形では出来ることが限られた。


「馬の姿は不便だからな」


『ならば、ご主人様と同じ姿になる』


 次の瞬間、オレの目の前にオレが立っていた。ただし、スッポンポンだ。意味わからん、え? 何これ。


 上から下までじっくり眺め、間違いなく自分サイズだと確認した。等身大のお人形が目の前に置かれた気分だ。ぎこちなく動いたオレは、向かいで首をかしげるもう1人のオレが動かないことに安心する。鏡じゃなかった。


 収納へ手を突っ込んで、ひとまず下着から一式着替えを用意した。触る勇気がないので困っていると、ヒジリが運んでくれる。身振り手振りで着替えを指示したところ、もう1人のオレが喋った。


『ご主人様、これを着た方がよいのか?』


「あ、ああ。着てくれないと困る」


 今の呼び方、もしかしなくてもマロンだ。そうだよ、栗毛の馬が行方不明なんだから……でも聖獣って、人間の形になれるの?


「ヒジリ、お前も人間の形になれたり?」


 渋いおじ様になったりして、コウコは綺麗なおねえさん、スノーはわんぱく坊主がいいな。青猫は想像できないが、まあイケメンだったら一発殴る。


『……無理だ』


 即答された。するすると地面を這う赤蛇コウコも首を横に振る。スノーは短い手でバッテンを作ってた。


「聖獣で人型になれるのは、マロンだけ……合ってる?」


『さすがご主人様だ。その通りだ』


 得意げに胸をそらすマロンに歩み寄り、前と後ろが逆のTシャツを直してやった。ぽんと銀に見える淡い金髪を撫でる。


『主、そこは僕にも聞いて欲しかったな〜』


「でも人間になれないんだろ?」


『当たり前だよね』


 何のために顔を出したのか。青猫は寂しがりやらしい。自分だけ話に加われない状況が不満だったのだろう。ごろんと腹を出して寝転がり、ちらちらと視線を向けてきた。


 撫でさせてあげてもいいのよ? って奴か?!

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