173.コンプリートしてた(1)
実家にいた頃もそうだが、猫をもふるときは全力が礼儀だ! 顔を埋めて大きな青猫の毛を両手でモフりまくる。悶えるブラウが満足して根を上げるまで撫で回して、やっと顔をあげた。ノアが無言でタオルで両手と顔を拭く。
猫、バイ菌扱いじゃね? こんなんでも聖獣なのに。
ぐったりして動けない青猫を放置して、かまどを確認したら料理が出来ていた。
「すごい、出来てる」
「出来てるんじゃなくて、作ったんだよ」
苦笑いしながらサシャが口を挟む。洗ったまな板を片付ける彼の向こうで、ライアンが真剣に鍋を覗き込んでいた。ぱちんと油が跳ねるたびに肩を揺らすので、どうやら唐揚げ担当になったらしい。
「唐揚げ、野菜スープ、兎肉の黒酢炒め……あれ? スノーがいない」
城の料理長に大量に焼いてもらった白パンを積みながら、白トカゲの姿をさがす。小さい手で薪を押し込んでたのに、どこへ行った?
「ああ、白い聖獣様ならフルーツ狩りに行くと」
ジャックが伝言を受け取っていた。オレがモフって忙しかったので、近くにいたジャックに言付けたようだ。彼が手早くパンをいくつか手に取り、千切り始めた。慌ててオレの収納から取り出した聖獣用の器を並べる。一緒にパンをちぎり、入れ物に並べた。この上に肉やスープを乗せて、猫まんま方式で食べてもらうのだ。
聖獣だから気を遣って皿を分けた時期もあったけど、彼らは味の染みたパンを齧る楽しみに目覚めてしまった。硬いパンを食べた時期のオレの行儀悪さが、彼らに伝染した形だ。まあ仕方ない。口には出せないが「獣だから」な。
「フルーツ狩り、なんかオシャレだな」
イベントみたいじゃん。果物が好きなスノーのために、城内で買い付けた苺や黄瓜を並べる。黄色い瓜って何かと思ったら、前世界でのマンゴーだった。見ての通り翻訳されたんだと思うが、マンゴーって瓜じゃない。瓜ならスイカだろ。
ちなみにスイカは、そのまま西瓜だった。マンゴーの中身は黄色いが、表面はオレンジ色だ。アップルマンゴーみたいに、皮が赤いマンゴーは見たことない。包丁でカットして並べた果物が、手際よくスプーンで身を削ぎ落とされた。
見覚えのないガラスの鍋みたいな容れ物に、マンゴーや苺が放り込まれる。初めてみるけど、誰か収納してたんだろうか。
「これ、誰の?」
『ご主人様のだよ』
「……どうして」
『僕が作ったからね』
あ、話が繋がった。物づくりが得意だと言ってたけど、こういう意味か。最初の頃に知り合ってたら、焼肉用鉄板や大鍋を作ってもらえて便利だったと思う。近づいたオレそっくりのマロンを撫でた。
正面から見ると意外と可愛いな。自画自賛? いやいやナルシストじゃないから。
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