104.自動翻訳は便利だがバグる(5)

 とりあえず今夜はリアムと泊まるとして……あ、いいこと思いついた。にやりとしたオレの顔に、何か企んでいるのは気づいただろう。しかしこの完璧な作戦は、奴に気づかれずに実行してこそ意味がある。そして翌朝、叫べばいいのだ。


「……セイ、今夜は私の部屋に泊まる約束だぞ」


 オレ達のやり取りに不安を隠さない婚約者(仮)に微笑んだ。


「大丈夫だよ、今夜もシフェルが寝ずの番をしてくれるから泊まれるよ」


 勝手に約束して口元を歪めた。むっとした顔をするものの、シフェルから反論はない。そうだろうな。だって「ダメ」と言ったらリアムがしょげるし、「無理」と言ったら別の監視役を用意しなきゃならない。


「……あなたの頭は悪知恵ばかりですね」


「そんなことないだろ。孤児対策や食事の改善……ほら、意外と役に立ってるじゃん」


 役に立つという単語で、思い出した。


「あとで魔法について書かれた本を貸して」


「それならば、私が前に読んでいた本を貸そう」


「魔法なら一通り習わせたはずですが」


 リアムとシフェルの温度差が凄い。リアムは本が欲しいならと与えようとした。シフェルは教えたのにまだ何か調べるのかと……ああ、オレがいつも変なことを始めるんで用心してるのか。


「ありがとう、リアム。あとで貸してね」


 テーブルの上を片づける侍女がいなくなってから、シフェルにも声をかけた。


「魔法については、ちょっと気になる事象があったんだけど……魔術師に聞いても無駄だと思ったから、自分で調べるつもりなんだ」


 きょとんとした顔で首をかしげるリアムに、より丁寧な説明を付け加える。


「オレが知る魔法はほぼ万能だ。でもこの世界だと制約が多いだろ。生き物に直接攻撃できなかったり、銃弾に魔力を込めないと相手が結界で弾いたり……オレにとって疑問だらけなわけ。ついでに言うなら、オレの結界は銃弾を弾く」


「はぁ……?」


 間抜けなシフェルの声が彼の心境を表している。心の中で「このバカおかしなこと言い出した」と呆れてるに1票だ。逆に傭兵連中が検証するまで、オレはなんで銃弾を結界で弾かないのかと思ってたから気持ちはわかる。


「これはジャックやレイルに聞けば知ってる話だけど、西の国に攻め込んだ時に森の中で実験した。オレが結界を張った木を様々な銃弾で襲った結果、全部弾かれて落ちたんだよ」


「……そもそも戦時中に実験を始めた理由をお伺いしても?」


「自分に張った結界が銃弾を防いだから、かな。そしたらヒジリがおかしいと騒いで、周囲の傭兵連中にバレたってわけ」


「あの場にいた傭兵は飼い殺し決定ですね」

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