104.自動翻訳は便利だがバグる(4)

『主ぃ、はらへったぁ』


「うっさいわ。空気読め、駄猫だねこ


 足を踏まれたお返しにしっかり蹴飛ばす。が、奴もそれなりの運動神経を誇る猫科動物だった。ひらりと避けたため、勢い余って机の脚にぶつかった。


「うっ……」


『愚かな奴よ』


「それ、何のセリフ……だっけ」


 机に懐く形でしたオレに、青猫の無情な声が追い打ちをかけた。


『僕のセリフ』


 くそ、そうか。アニメのセリフだと思い込んでた。ブラウが意味ありげに使うから、深読みしたじゃねえか。二重のダメージに沈んでいると、隣のリアムが優しく肩を叩いた。


「セイ、ダネコとはどんな意味だ?」


 きらきらした目で、純粋な言葉を吐かないで欲しい。ただの罵りですとは言えず、返答に詰まるから。おそらく自動翻訳がバグった結果、そのまま聞こえたんだろう。駄目猫と言えば通じたかもしれない。しかし聖獣が崇められる世界で、いくらぐだぐだ猫でも公に罵るのはマズイか。


 裏を返せばバグった単語は、今後もこの世界の人間に意味がバレる心配がない!


「ブラウを示す言葉だよ」


 嘘は言っていない。正しく説明しなかっただけだ。自分を誤魔化すオレに、シフェルの視線が突き刺さった。雰囲気で意味がバレてる気がした。


「孤児院については、私の管轄で動きます。ご報告は後ほど」


 ウルスラが時間を気にしながらそう締めくくった。宰相閣下は、仕事に追われているらしい。丁寧にリアムへ別れの挨拶をすると、あたふたと護衛を連れて帰っていった。考えてみれば、オレのいた世界だと官房長官とか大臣クラスの忙しさがあるわけで、いつまでもお茶会で遊んでいられないわけだ。


「シフェルはいいの?」


ですから」


 もしかしてそのお仕事はオレの監視とか言いませんよね? 笑顔で自分の鼻先を指さして首をかしげると、とっても美しい笑顔で頷かれた。やっぱそうか。オレがリアムにあれこれしないように監視してるわけか。


 そっちの意味では、まったく信用ゼロだ。突き刺さる視線から逃れようと、話題を強引にねじ曲げた。態とらしいのは承知で、この際、片付ける事案はまとめて解決しておきたい。


「北の王太子はどこに閉じ込めたの?」


「牢屋です」


「オレらの宿舎に入れるわけにいかない?」


「無理です」


 さっきから即答しやがって、オレの言うことなんて予想済みだってのか。こうなったら、何としても一緒の部屋にしてやる!!

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