13.盾となる名誉(7)
「ああ、俺を守った褒美だ」
褒美の意味がじわりと胸に届いた。
そうだ、オレはリアムを守った。彼の盾となり、敵を排除し、この身を捧げて――。
「俺を守る盾となる栄誉が増えただけ、だろう」
慰められている、そう否定も出来るだろう。不思議とそうは思わなくて、素直に言葉が胸に落ち着く。皇帝を守る盾となった栄誉、その褒美が彼のお気に入りの場所への立ち入り許可だ。
大したことをしていないと遠慮するのが常識なのか?
子供だからまともに受け取ってもいいのか?
「大体、血など洗い流せばいい」
汚れたと繰り返すオレを笑い飛ばすリアムは、肩を竦めて己の手を目の前に掲げて見せた。彼の柔らかそうな象牙の肌は赤い色が移っている。手にふぅと息を吹きかける仕草をすると、忌まわしい赤は消えてしまう。
ぱちくり目を瞬くオレの手を掴んだリアムは、同じように息を吹きかけた。魔法なのだろう、赤はやはり綺麗に消える。表と裏を返して何度も血が消えた両手を見つめ、ようやく息をついた。
「ありがとう」
「それは俺のセリフだ」
助けられたのは俺だからな。そんな気安いリアムの言葉に、強張っていた頬が緩む。ようやく笑みを浮かべたオレを、皇帝陛下らしからぬ行儀の悪さでリアムが引っ張った。後ろへ倒れこむように体重を使って引っ張られたことで、踏ん張る余裕もなく一緒に転がる。
大きなベッドサイズのソファは柔らかく、子供2人を受け止めてもまだ広い。並んで転がりながら、くすくす笑い始めた。
泣きたかった気持ちの正体がわかったのだ。きっと、リアムに嫌われると思った。もう会えなくなって、二度と声をかけられなくて……怖い想像をしたから泣きたくなったのだろう。
血をかぶったオレを肯定されれば、現金にも不安は吹き飛んでしまった。
外見に引き摺られて幼くなっていた感情は、ようやく落ち着きを見せる。頬にかかる白金の髪を掴んで……ふと気付いた。
あれ? なんでこんなに髪が長いんだ?
大きく首を傾げて、首にかかる長さの髪を指先で摘む。謁見前はぎりぎり結べるくらいだった。簪を挿すときに、侍女のお姉さんが苦労してたから間違いない。
「髪がどうかしたか?」
「いや、短期間で長くなったな……と」
短期間と称するにも早すぎる。わずか半日足らずで7cm近く伸びていた。人差し指の長さだと考えたら異常だ。確か1ヶ月で1cm前後だっけ? かつての記憶を辿るが、すぐに”ここは異世界だった”とまず常識を疑ってかかる。
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