13.盾となる名誉(8)

「オレのいた世界だと、1ヶ月にこのくらいしか伸びないんだよ」


 爪の大きさを示して長さを示せば、得心がいった顔でリアムが頷く。1cmという単位が通じるか分からず、間抜けな尋ね方になったが、どうやら通じたらしい。なんか爪も長くなってないか?


「魔力を使うと伸びるな、爪も伸びた筈だ」


「……なるほど」


「キヨヒトの世界は何もかも違うのだな」


「面倒くさい?」


 いろいろ教えてくれると言ったリアムの発言に、意地悪な言い方をしてみる。たぶんリアムは楽しんでいる。だからこうやって秘密の部屋も教えてくれた。見捨てられないと知っていれば、強気に出られるものだ。


「幼い弟が出来た気分だ」


 やはり面倒見がいいんだな。リアムの黒髪に手を伸ばして、懐かしい色に目を細めた。ここまで見事な色じゃないが、かつてのオレも黒髪だった。学生時代に染めなかったから、日本人の中でも黒い方だっただろう。


「オレ、黒髪好きだ」


 見開かれた蒼い瞳を覗き込む。外見だけなら弟のような美人、中身は大人でしっかりしていて面倒見がいい。どこまでオレに好きにさせたら気が済むんだろう。ホント、異性ならよかったのに。


 うっとり見惚れていると、突然声が聞こえた。


『陛下、いい加減にしてください!!』


「……見つかったか」


 しかめっ面で舌打ちする美人が身を起こした。ベッドが揺れて、仕方なく同じように起き上がる。ごろごろ転がれる大きさのソファベッドは居心地がいいが、どうやら今の声から察するに、この甘い時間は終わりらしい。


「今の、シフェル?」


 聞き覚えのある声色だと思いながら尋ねると、リアムは黒髪を手で梳いて乱れを直した。ちらりと見えたうなじが色っぽい。いや、断じて腐ってないから。


 なぜか自分に言い訳しながら、同じように髪を梳いて整える。


「ああ。あれでも皇帝直属部隊の隊長だ。どうやら結界が見つかったようだ」


「結界? ――ここに来たときの、膜みたいやつ?」


「気付いたのか。さすがだ」


 人払いをしたと連れてこられ扉をくぐった瞬間の違和感を思い出す。あれは、なんらかの目晦ましに似た結界だったのか。この世界では過去の知識や常識を捨てて、直感で生きた方が楽そうだ。


 異世界でのコツがつかめた気がして、少し嬉しくなった。前の世界のオレは頭ざくろの死体で、もう生き返ることは不可能だ。どうしたって、今の世界に馴染んで生きていく必要があった。


 なんだかんだ、トラブルを起こしているけれど……楽しく生きていけそうだ。この身体が竜属性で、通常の人間より長生きできるのなら、寿命をまっとうして老衰ろうすいで死にたい。

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