110.宴会は予想外の方向へ(1)

 肉や魚の焼ける匂いが漂うと、兵士達がちらほらと顔を見せる。悪いが、君達の分まで用意してない。傭兵には何も用意されてなかったから、オレが用意した。聖獣も協力してくれた。見下してた奴らが、自分達より厚遇なのはさぞ腹立たしいだろう。


 同情する余地なんてないけどね。彼らが傭兵を差別しなければ、オレだって多少は考慮した。しかし戦時中の傭兵に対する態度を知ってるから、兵士に同情はしない。


「キヨ、肉が焼けたぞ!」


「焼けた魚は分配していいのか?」


「ボス! 今日はこっちで食うだろ」


 あちこちから掛かる声に手を振り、オレはジーク達のテーブルに着いた。いつもはジャック達と食べていたが、今回くらい違ってもいいだろう。彼らの話も聞きたいし。


「肉も魚も、スープも! 好きに食べていいぞ!!」


「「「「いただきます」」」」


 すっかり傭兵達に定着した挨拶が口々にこぼれ、我先にと皆が食べ物に群がる。実は官舎で作りかけの料理も持ち込んだ。これで量は十分すぎる程足りる。


 オレの知る知識では『一番やばいのは空腹』だ。世界史の勉強でも「パンがなければお菓子を食べればいいのよ」なんて言い放った王妃がいたから国が滅びたんだし……あれ? ケーキだったか。うろ覚えの知識は披露すべきじゃないが、異世界だからバレる心配はない。


 適当な話をしながら、運ばれる料理を食べ始めた。席は少し離れたが、オカンであるノアが食事を運んでくれる。


「いつもありがとう」


 くしゃっと髪を乱して去っていく後ろ姿はカッコイイ。あれで性格がオカンなんだから、さぞモテるだろうと尋ねたら、このテーブルの連中は首をかしげた。


「え? 面倒見のいいイケメンで強いんだぞ。二つ名持ちだろ。モテそうじゃん」


「商売女ならわかるが、一般女性はないぞ」


「そうだ。傭兵だからな」


 どこまで行っても『傭兵だから』はついて回るらしい。うーん、意外と根深い。二つ名持ちなら稼ぐ額も大きいし、『旦那元気で留守がいい』は通用しないのか? 


 行儀悪く肘をついてパンを齧った。目の前のスープに浸さなくても食べられる白パンは、兵士や傭兵レベルだと高級で手が届かない品らしい。凄い勢いで彼らの胃袋に収まっていく。まあ、気を使った連中がオレの前にパンを積んでくれてるけどね。


『主殿』


 ヒジリが呼ぶので下にパンをひとつ差し出す。放り投げるのは失礼だが、足元の入れ物の位置が見えないので持っていた。


「痛っ」


 当たり前のように手ごと齧るのは、どうかと思う。そういや他の聖獣も噛みたがるよな~。何でも聖痕みたいな扱いで、皇帝陛下が噛まれたがるくらいだ。きっとありがたいご利益があるんだろう。今のところ実感ないけど。

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