109.平民風情の底力に驚くがいい!(3)

 平らな床を眺め、離れた場所にするか調理場の近くにするか迷うが、すぐに食べるからと調理テントの横にコンクリートのお風呂より大きなプールを作った。これのイメージは、テレビで観ただ。市場の特集番組で観た四角いプールに、ブラウの魚を水ごと入れた。


「うわっ、キヨ。先に声かけろ」


 鍋をかき回していたジークに水が飛んだらしい。


「悪い!」


 唖然とする魔術師に気づいた兵士もこちらを窺っている。だが、このバーベキュー会場は傭兵専用ですので、悪しからず。生け簀を覗いた水魔法の使い手が、手早く魚をチョイスして捌き始める。こっちは肉と違って見ても平気だった。


「魚はスープに入れるか?」


 普段はライフル担いでるライアンが、慣れた手つきで魚の腹を切って内臓を取り出す。手早く水で中を洗うと、魚の尻尾を掴んで尋ねた。


「いや、串焼きにしようぜ!」


「なら、猪を煮よう。焼くと固くなるからな」


 手分けして傭兵達が準備を整える。本当なら戦の功労者だし、戦場を幾つも掛け持ちしたんだから、用意くらい国でしてもらいたかったが……こういう和気藹々わきあいあいとした雰囲気も悪くない。本当にキャンプみたいだった。


「ところで……スノーはどうした?」


 肉、魚、野菜と揃ったので……食料調達はもう十分だと思うんだけど? そんな疑問を呟いたら、呼ばれたと思ったのか。頭上からスノーが舞い降りた。なに、君だけ空を飛んでたのか? 大きいドラゴン姿の爪から果物を落とすので、網をイメージして受け取る。魔力の網に落ちた果物は熟していた。


 いわゆる南国系フルーツだ。人の顔より大きいマンゴーらしき果物は、甘い香りを放つ。これで食後のデザートまで完璧だった。聖獣が優秀過ぎて泣けそう。小型化して飛び込んできたスノーを全力で撫でまわした。爬虫類の冷たい肌も気にならない。


『主様、デザートにいいでしょ?』


 聖獣内で得意な分野で食料調達をしたらしい。手分けした彼らを次々と褒めて撫でまくりながら、コウコが沸かしたスープにハーブ塩で味付けした。隠し味の醤油がいい香りを漂わせる。


 トマトスープ、醤油スープ、串焼きの魚と大量の肉。止めは今朝の厨房でGETした白パンだ! 皇帝陛下直々の下賜品であるぞ~! というわけで、ほぼ準備は整ったと思う。


「……化け物だな」


「魔力の底が見えない」


 料理の側で何やら騒いでいる魔術師を振り返り、にやりと笑った。


「化け物で結構。あんたらが見下した、平民風情の底力を甘く見るなよ?」

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