110.宴会は予想外の方向へ(2)
「ヒジリ、噛みすぎ」
『つい、噛みやすくてな』
噛みやすい手なんてあるのかよ。心の中で悪態をつくが、彼らにさして悪気がないのは知ってるので口にしない。完全に陽が沈み切っていない周囲は明るくて、全体に風景が赤く染まっていた。
「この世界でも夕焼けは赤いんだな」
戦場でも見たが、こうして見ていると不思議な気持ちになる。前の世界とあまり変化が感じられない。四季があるか分からないが、多少の季節の変化があると聞いた。実際、この世界に落ちたばかりの頃に比べて肌寒く感じる。
「朝も赤くなるぞ」
「ああ、そこもオレのいた世界と同じ」
雑談しながら、かまどの様子を窺う。煮えたスープは保温だけの小さな火が燃え、残ったかまどは鉄板の下でがんがんに火が焚かれていた。焼けた肉を持っていく奴は、代わりに新しい肉を鉄板に並べる。同じ量ずつ入れ替えるように指導したので、トラブルもなく機能していた。
「キヨはあっちの宴会に顔出さなくていいのか?」
カップ片手のジャックが近づいてきた。少し顔が赤いと思ったら、持ち出した酒を飲んでいるらしい。見れば、このテーブルでも酒を飲んでいる奴らがいた。
「問題ないよ。皇帝陛下には許可を得たし、オレは自分が食べたいものを調理して食べるだけ」
「宮廷の料理のが豪華じゃねえのか?」
ジークムンドもいつの間にか酒を手にして、泡が出る炭酸系の赤い液体を飲み干した。なんか甘い匂いがする。美味しそう……。
「ええ? ここだって豪華じゃん。なんたって聖獣が用意した食材を、英雄が調理したんだぞ?」
「自分で言うなっての!」
「たしかに英雄様々だぜ!」
げらげら笑う傭兵達のヤジを聞きながら、自分のカップを手にした。先ほど半分飲んだカップはいつの間にか満たされていて、気遣いに嬉しくなる。スープもパンも、焼いた肉や魚も……彼らは自分達の分だけじゃなくて、オレや聖獣の分も運んでくれていた。
「我らの英雄様に乾杯だ!」
茶化すジークムンドの声に全員がカップを持ち上げ、「乾杯」と唱和して飲み干す。笑いながら同じようにカップの中身を干したオレは、
また獣ベロチューで治されるのは御免だ。お前、さっき生肉齧ってたの知ってんだからな。
「ヒジ…リ……ステ、イ」
待てを言い渡して、落ち着いたところでカップの中身を確認する。咄嗟にテーブルに戻したカップには、赤い炭酸が入っていた。
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