110.宴会は予想外の方向へ(3)
「……酒を入れたの、誰だ?」
ジークムンドはテーブルの傭兵達と首を横に振り、ジャックやノアは顔を見合わせるだけ。しかし誰も入れていないのに、カップに酒が満ちる現象はおかしい。
「お子様には早かったか?」
くすくす笑いながら揶揄う声の主が、隣のテーブルからカップを揺らす。目立つ真っ赤な髪を帽子で隠したレイルの出現に「やられた」と呟いて、また咳き込んだ。喉はしばらく発声禁止にしたい。涙目で睨みつけるオレの髪をくしゃりと撫でたレイルが、隣へ運んだ椅子ごと滑り込んだ。
「酒入れるなら、先に声かけてやれ」
事情が分かって苦笑いしたジャックが、近くのテーブルから持ってきた椅子に腰かける。いつの間にやらノアも簡易の折り畳みベッドをベンチがわりに座っており、ライアンやサシャもカップ片手に寄ってきた。
いつものメンバーが揃ったところで、目の前でレイルが酒を注ぎ直した。
「もう一度乾杯だ」
「え? 未成年が酒飲んでいいの?」
「「「「ミセイネンって何?」」」」
自動翻訳、仕事しろ!
宴会だし? オレのお祝いだし? ここは興味があるので飲んでみよう。前世界で飲酒しなかったが、興味はある。飲んだ奴の経験談だと「ふわふわして、気持ちよくなって、温かい」らしい。さらに「翌日は頭痛が痛いくらい酷い」と言葉がおかしくなっていた。頭痛が痛いって、表現
改めて炭酸が気管に入らないよう注意しながら飲むと、甘い匂いを裏切らない口当たりの良さだった。初めての酒だが、苦いと思っていたので意外だ。ビールだと苦いのだろうか。宮殿で飲んでるイメージはワイン一択だけど。
「意外と飲めるクチだな……こっちはどうだ?」
今度は透明の酒が出てきた。動物のように匂いを嗅ぐ。カップを洗う前に共用したので、さっきの甘い匂いが邪魔でわからなかった。ぺろっと舐めて、それからぐいぐい飲み干す。
ジュースみたいで飲みやすい。次の酒は少し苦い気がするが、これはこれで美味い。舌がマヒした感じで、強い味しか感じなかった。ツマミがわりに魚を齧り、また新しい酒を干す。
「うん、うまい」
「やべぇ! キヨが酒飲めるとは……!! おい、そっちの酒も持ってこい」
ライアンの呼びかけで、大量の酒が並んだ。各瓶ごとに種類が違うらしく、よく見ればラベルに何か書いてある。しかし視界がぼやけて読めず、首をかしげながら注がれるままに酒を干し始めた。
楽しくなってきて「ジーク、顔おかし……っ! あははは。後ろひっくり返るっての」と大笑いしながら仰け反る。呆れ顔のヒジリが首根っこを咥えて支えてくれた。お陰で倒れるのは回避する。
「ボスは笑い
「泣いたり銃ぶっ放すよりマシだけどな~」
レイルが物騒な例えをだすと、誰かが「しょうがねえだろ、覚えてないんだから」と反論した。声は聞こえるが、内容がきちんと理解できない。ふわふわして、とにかく箸が転げてもおかしい状況だった。
「それにしても酒豪だな」
「これは……ザルを通り越して土管だぞ」
「酒、足りるか?」
この世界でも枠とかザルとか言うんだな~なんて曖昧な記憶を最後に、オレは意識を手放した。
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