74.柔らかいお肉様とお醤油万歳!(3)
「そうだが?」
それが何かと首をかしげるユハ。よくみれば、魔法を使わないで調理に加わった連中の手には、愛用のナイフや剣が握られていた。ご飯作る包丁代わりに、人殺しに使ったナイフを流用する神経がわからない。この世界では常識なのか? オレが繊細すぎるだけ?
「ああ……調理が終わったら返すね」
違う、問題点が次元レベルでズレてる。オレのナイフを使ってることじゃなくて……人殺しナイフで野菜を切ることが嫌なのに、え……もしかしてオレだけ? レイルもシフェルも気にしてないし、ノアも平然としてる。
顔を上げて見回すが、誰もユハを咎めなかった。唸ったオレに、周囲は顔を見合わせる。明るい日差しの中、似合わない重い溜め息を吐いた。
「他のナイフも回収しておいたから」
にっこり笑って続けるユハに悪気はない。だから叱っちゃダメだ。短くした白金の髪に、ジャックが手を乗せた。屈んで視線を合わせる黒い瞳に、情けなく笑い返す。
「どうした、キヨ」
「なんでもない……たぶん」
すでに野菜は切られちゃってるし、どの野菜が人殺しナイフで切られたか区別できない。一応洗ってから使ったと信じたいので、精神衛生上、もう聞かないことにした。
そうだ、オレは何も知らなかった。自己暗示をかけながら、野菜を4つの鍋に均等に放り込んでいく。柔らかくなった肉も一緒に入れて、机の上にある醤油を手に取った。
「オレの記憶だと、醤油は最後に入れないと香りが飛ぶ!」
味噌も同じ……あ、味噌炒めも食べたい。リアムの宮殿に戻ったら、絶対に塩と醤油以外の味がする食べ物を強請ろう。ごくりと喉を鳴らしながら、首をかしげた。
あれ? 前に宮殿内で醤油味は食べた記憶がない。
「シフェル」
まだ戻っていないはずの赤銅色の髪を探すと、しゃがみこんでブラウを撫で回していた。やつは猫好きか! まだ意識不明の聖獣は、背中より白っぽい腹を晒して転がる。野生の本能は微塵も感じられない。
「どうしてシフェルの部隊に、醤油があったんだ?」
中央の宮殿で食べたのは、ヨーロッパ風の料理ばかり。バターや酢はあったが、醤油や味噌などの和風調味料はなかった。醤油の匂いに反応して求めたが、騎士の誰かの私物だったんだろうか。
「……今頃、何を言っているんですか」
醤油を知っているから求めたんでしょう? そんな声にならない副音声つきのシフェルに凝視され、オレは「やらかしたか」と項垂れた。
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