74.柔らかいお肉様とお醤油万歳!(2)
異世界の魔法はイメージだ! 知っている物を模して作る分には、イメージがしやすい。だが料理自体をしたことがなかったので、ビニール袋で揉む知識は料理好きテレビタレントから得ていた。衛生的にも手より袋の上から揉む方がいいと思う。
「キヨ、醤油です……え? 何を……して」
誰も手が空いている奴がいなかったのか。騎士団長で指揮官のシフェルが醤油の瓶を片手に戻ってきた。驚きすぎて言葉が飛んでるが、オレは気にせず手を差し出す。
どうせ「非常識」とか「規格外」って言われるのはわかってる。
「醤油、ありがと」
礼を言っても瓶が手に触れない。揉んでる途中だから早く渡して欲しい。そう思って顔を上げると、固まっていたシフェルが動き出した。ぎこちなく瓶を渡すと、近くにあった椅子を引き寄せて座ってしまう。
じっと見つめる先は、オレのビニール袋魔法だった。
受け取った醤油を机の上に置いて、さらに揉むと……突然肉の手ごたえが変わった。硬いグミが、突然スポンジになった感じだ。ぐにゃっと握った分だけ中に指がめり込む。
「げっ、本当に柔らかくなった」
「信じてないくせに実行したのかよ」
呆れたとレイルがぼやく。赤い短髪をくしゃりと握ったレイルを振り返り、正直に疑問をぶつけた。
「なんでこんな知識あるんだ。もしかして……めっちゃ料理好き?」
「その肉、食うものがなかった頃によく捕まえてた。おれの故郷に沢山いたからな」
珍しく過去の話をしてくれたレイルだが、シフェルは複雑そうな顔をした。そういえば、レイルって北の国出身だって言ってたな。だからこの辺で取れる動物? に詳しいんだろう。
「地元の人が知ってるツウな食べ方ってやつか」
食材の肉を並べていた大皿の上で結界を解除する。どさっと落ちた肉はとろとろだった。すでに串を刺した肉も、大皿の上に溜まった黒酢に塗しておく。揉むより時間がかかっても、美味しく柔らかく食べられるはずだ。
リストのメモを見ていると、バターを発見した。昨夜は暗い中で読んだから気付かなかったが、塩とハーブだけじゃなく、バターも収納していたようだ。バター醤油炒めとか……ご飯が欲しい。
「キヨ君、僕も手伝う」
ユハが近づいてきて、手際よく野菜を切っていく。まだ手首に縛られた痕が残ってるが、まあ治癒魔法を使うほどの傷でもなさそう。安心したが、ユハが使っているナイフを二度見した。
「それ……さっき、戦闘で使ってなかった?」
敵のおっさんにオレが突き刺したナイフじゃなかろうか。
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