132.上目遣いで、お兄ちゃん♡(1)
「ぶはっ……何見られてるんだよ、お前。いろいろ脇が甘いよな」
連れて来られた部屋で、レイルに笑われながら指示通りに腕を上げる。むっと唇を尖らせて頬を膨らませて抗議するのが精一杯だが、余計に子供っぽさを演出していた。
「だってさ、オレはリアムが一番大事なんだからしょうがないじゃん」
「……義兄としては、諦めてもらいたい。美女を探してやるからな」
ぽんと頭に手を置いて優しく撫でると、シンは服のチェックに向かう。
もう失恋確定で話を進めるシンに隠れて、「まだ情報解禁にならないの?」と聞かれた。従兄弟同士そっくりな赤髪のレイルに首を横に振った。まだ解禁じゃない。邪魔者を一通り片付け終えるまで、リアムは性別を偽る必要があった。
男児と信じられた現状ならば、彼女を皇帝の座から引き下ろそうとする連中も容易に動けない。正統なる血筋の後継者だからだ。しかし女とわかれば別だった。
男児に娘を婚約者として押し付けることは出来ても、貴族達はそれ以上の有効な手を打てない。しかし12歳の少女なら? 下衆な想像だが、無理やり手を出して皇配に入り込もうとするだろう。
傷物にされたら、彼女を守ろうとした皇帝派の他の貴族も黙るしかない。もちろん当事者を処断する方法もあるが、その場合は彼女の傷を表沙汰にする醜聞がついて回るから。誰もが口を噤んでなかったことにする。そんな未来を彼女に押し付ける気はなかった。
守り切ると言いたいが、毎日片時も離れなかったとしても、何が起きるかわからない。男尊女卑が残るこの世界で、リアムが今も無事なのは『皇帝陛下という地位をもつ男児』だと思われているからだ。そう信じ込ませて守ったシフェル達に感謝こそすれ、恨む気は毛頭なかった。
でも……早くオレが力を手に入れれば、この世界で認められる男になれば、彼女をその分1日でも早く解放してやれる。好きな女が可愛いドレス着て、性別を偽ることなく生きていけるよう、全力で敵を排除する。誰に命じられなくたって、オレの至上命令だった。
ちらっと視線をやれば、服の刺繍の位置が気に入らなくて直しを指示するシンの背が見える。小声でレイルに頼んだ。
「悪いけど、シンにはもう少し秘密な?」
「それはいいが……滅茶苦茶睨んでるぞ」
言われて振り返れば、先ほどまで針子と打ち合わせしていたシンが睨んでいる。しかし視線の先はオレじゃなく、レイルだった。首をかしげるオレに近づいたシンが手を伸ばし、ぎゅっと腕の中に閉じ込める。
「キヨ、確かに皇帝陛下はダメだが……レイルもダメだぞ」
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