216.甘やかすのは主人の役目(3)

 こうなったら徹底的に甘やかしてやる。奇妙な使命感から、マロンの分を口に運んで飲ませた。半分ほど飲んだところで、本人の希望に従い膝から下ろした。隣に座ってパンを両手で持って齧る姿は、楽しそうだ。


 膝の先をぶらぶらと揺らすのはお行儀が悪いんだけど、この年齢の子供なら許されるし。マロンが見た目以上の年齢なのは知ってるけど、中身は外見相応だと思う。成長する機会がなかったんだ。


『我も人化を習得したら……』


『え? あれは覚えるの大変だって聞いたわよ』


 抱っこしてもらえるだろうか。そんなヒジリの呟きに「え?」と振り返る。コウコは呆れたと滲ませながらも、反対しなかった。


「全員変身できるの?」


『修行してレベルアップすれば……』


『レベルアップすると、姿が変わるのであまり好みませんけど』


『僕は毛皮を捨てたら負けだと思う』


 ヒジリはそういうとこあるよね。人化って大変だけど習得できるのか。レベルアップと聞くとゲームみたいだが、聖獣でも強くなる方法があるようだ。でもってスノーはチビドラゴン姿がお気に入りらしい。ブラウはもう……我が道を行くというか、もふもふにそこまで誇り持ってたんだ?


 突っ込みどころが多すぎて絶句した後、大きく溜め息をついた。確かにゲームの中では聖獣って人の姿のイラストついてたし、カミサマも獣人がいるよと言ってた。


 レベルアップでいろいろ変化するなら、ぜひとも頑張ってもらいたいものだ。某ポ〇モンみたいに、進化したら戻れないのだろうか。


 ……顔を上げるとシフェルやレイルが驚いた顔をしているので、この世界の奴らも、レベルアップを知らなかった模様。聖獣に関する資料が少ないと聞いたけど。


「中央の宮殿に戻ったら、聖獣は全員事情聴取な」


 今度こそ隠してることを洗いざらい吐いてもらおうか。宣言したオレに目を逸らしたのは猫科2匹。きょとんとしたのが爬虫類2匹、マロンはしっかり頷いた。よしよしとオレそっくりの可愛い子の頭を撫でると、嬉しそうに笑った。そうか、オレってこんなに可愛いのか。


「そこのナルシスト!」


 無視だ。


「キヨ!」


「なに?」


 レイルがぶすっとした顔で何やら差し出した。さっと目を通して頷くと、レイルはその紙片をくるくる巻いて煙草の火をつけた。一瞬で燃え上がる紙を収納へ放り込む。


「なあ、煙草も中に入れたけど……燃えたりしねえの?」


「今まで燃えたことはないな」


 空間が特殊だから平気なのか。納得しながら両手でパンを食べたマロンの汚れた指を、収納から取り出した布巾で拭いた。濡らして保管したタオルが、そのまま臭くならずに乾かず保管できるんだから、燃えないこともあるかも知れない。


「ところで今の情報、どう利用する?」


 シフェルがいる場所でそんなこと尋ねるなんて……珍しいな。レイルの顔をじっくり眺めたが、目を逸らそうとしない。話しても構わない内容なんだろう。下手するとシフェルにも同じ情報を売った、とか? ありそう。


「東の貴族連合だっけ? 手を組んでみてもいいんじゃない?」

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