109.平民風情の底力に驚くがいい!(1)

 魔術師が声を上げる前に地面が青白く光って平らになる。集め過ぎた魔力が余っているので、かまどを3か所作った。これは以前も作ったので苦労せず形にできる。一度作った物は目で覚えているから、イメージが簡単だった。


「今の魔力はっ!」


「なんだこれは……1人でこんな……」


 絶句している魔術師を放置して、必要な物を思い浮かべる。


「焼肉用の鉄板はレイルにもらったのを使って……汁物も作るなら鍋が必要か。聖獣達が何を持って来るか分からないから、料理の内容は臨機応変に対応できるよう準備しよう」


 ある程度の方向性を決めたところで、収納口を作って手を突っ込んだ。テントの足を出したところで、失敗に気づく。立った高さで収納の口を作ると、重い物を出すのに不便なのだ。戦場で学んだ知恵で、やり直すことにした。


「誰か、テント手伝って」


「「「おう!」」」


 声をかけて収納口を消し、足元に改めて収納口を作った。ずるりと引っ張った先を駆け付けたジャックが引っ張る。2張目はユハが手伝ってくれた。あっという間に7張のテントが準備される。この辺の手際の良さは、戦場で慣れているせいだろう。


「収納口も……そんな、規格外すぎる」


「そこの魔術師、邪魔。テーブル出すからどいて」


 宮廷魔術師のほとんどは貴族出身者だ。そのためオレを含めて傭兵を見下している。リアムと一緒に勉強した際に失礼な発言されたことを思い出した。場所を開けさせて、そこに巨大鍋を4つ置いて水を満たす。慣れた傭兵連中が鍋をかまどに乗せた。


「まだ魔力が尽きないのか?」


「そう、全然平気。あんたらがいうだけどね」


 嫌味が口をついて出た。大人げないけど、撤回する気はない。魔力量が多いと驚いているようだが、聖獣4匹も連れ歩いている時点で、わかってたんじゃない?


 礼儀正しく接してくる人には礼を尽くす。でも見下してケンカ売る相手に、媚を売ってやるほど自虐的な趣味はなかった。ぱたぱた歩いてテーブルを並べ始める。テントの1張を料理用にするのは戦時中からのルールで、風魔法が得意な奴らが待ち構えていた。


「ボス、食材は?」


「手伝うぞ」


「……ヒジリ達が戻るのを待って」


 少し肌寒いので、ついでに結界を張った。広場を覆う形で出入りは自由。気持ち的にはあれだ、農業用のビニールハウス――雨や寒さを防いで暖かく、ひらひらした透明の素材が広場を守るイメージだった。


「ん? キヨ、結界か?」


「暖かい方が楽じゃん。下で焼き物したりするから、すぐに暖まるぞ」


 鍋の湿気もあるから快適だと思う。煙だけ外へ出す煙突を上に作っておけば完璧だ。ついでに照明を付けようと周りを見たら、すでに傭兵連中がランプを用意していた。そういや戦場でも使ってた気がする。虫が来ないLEDみたいな不思議な灯りが、整地した広場を照らした。

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