279.結婚報告は波乱万丈(3)
「「「いただきます」」」
手掴みを許可したため、一斉に食べ始める。普段パン食なので、どうかと心配したが……あいつらには関係なかった。話を聞いて理解したらしく、リアムが目を輝かせておにぎりを齧った。小さな赤い口が開いて、ぱくりと黒いおにぎりの先を……なんだろう、エロい気がする。ちょっと前屈みになりそうだぞ。
さり気なく味噌汁に視線を逸らし、そっと口元に運んだ。いい香りがする。実家の味噌汁は安っぽかったな。あれは絶対に出汁の顆粒使ってたと思う。味噌汁の具は、オレが自己流で開発した冷奴様の豆腐もどきだ。他の具を探し、ネギを入れた。玉ねぎだったので、ほんのり甘い。
「どう?」
「美味しい」
嬉しそうに味噌汁をスプーンで掬うお姫様……うん、通常運転だ。見回すと傭兵達は器に口をつけて流し込んでいた。ほとんどお茶と変わらんな。あいつらに上品さは求めてないけどね。あ、シチューの時も流し込んでたわ、うん。
ほうれん草は見た目の色だけ違和感すごいが、味は普通だった。焼き魚の骨は、じいやが綺麗に外してくれた。というのも、オレがぐしゃぐしゃに突いたのを見て、呆れたらしい。ついでにリアムのも骨を取ってくれた。その手元を見ていたジークムンドが真似を始め、他の連中も覚えていく。
無事に朝食を終えたオレは、着飾る予定のリアムを部屋に送り届けた。この朝食を一緒に! 作戦の時間稼ぎで、女中さん達のお針子仕事は間に合ったようだ。じいや経由でお小遣いの金貨を追加しておいた。今日は一日、ゆっくりぐっすり眠ってください。お疲れ様。
美しい桜色のふわっふわワンピースを着たリアムをエスコートするオレは、いつの間にか用意された紺色のスーツ姿だった。これも女中さんが仕上げてくれたらしい。胸元のスカーフを入れるポケットや袖、裾に濃桃色のテープが入っていた。隣に並ぶと映えるように考えてくれたんだと思う。その上、中のシャツは桜色だった。袖とか裾が濃淡のピンクで綺麗だ。
感謝を伝えたオレは、以前の帰還パーティーの夜会でバーベキューをした庭に彼女を連れ出した。着替えた黒服じいや、ゴツい体を無理やりスーツに押し込んだジークムンド達、ベルナルドが右側に並ぶ。反対側にはシフェル率いる親衛隊……じゃなかった、近衛騎士団が制服で敬礼していた。
見送りの宰相ウルスラやクリスティーンの姿もある。彼女らに手を振ったオレは、いきなり後ろに現れた気配に短剣を抜く。突きつけようとしたところで、正体に気付いて溜め息をついた。
「殺すぞ」
「やれるならどうぞ」
レイルと軽口を叩き合ったところへ、パウラが飛びついた。化粧をした綺麗な顔で、唇を尖らせるリアムが可愛い。なにこれ、嫉妬?
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