279.結婚報告は波乱万丈(4)

「私もいくわ」


「……転移は2回に分けよう」


 危険なので、人数が増えた分だけ転移の回数を増やす決断をした。万が一にもリアムの指とか忘れてきたら、世界滅亡の危機だからな。彼女の安全を優先し、シフェル達近衛騎士数人とレイル、ベルナルドを第一陣にする。そこにオレとリアムが入るのは当然だった。


 ちょっと行ってきます。軽い言葉を残して転移する。魔法陣が足元に広がるが、なぜかシフェルが渋い顔をした。まあ、出鱈目だし? オレが魔法陣の古代文字とか扱えるわけないじゃん。もどきだよ、もどき。雰囲気が必要だし、転移する範囲がわかりやすいように表示しただけ。


 記憶に残っていたゲームの魔法陣なので、たぶんだけど悪魔呼び出し用だったと思う。悪魔は出てこない筈なので、異世界版の魔法陣ということで許してほしい。すでに出迎えの準備を整えた、北の国の王太子シンに抱きつかれた。


「待っていたぞ、我が弟よ!」


「おはよう、お兄ちゃん。リアムやシフェルがいるから、客間に案内してくれる? まだ残りがいるから」


 回収してくる。そう告げると、王太子スマイルで頷いてくれた。一瞬だけ迷ったけど「シン兄様」ではなく「お兄ちゃん」呼びが功を奏した形だ。レイルがくつくつと笑い、リアムは優雅に挨拶している。案内されるリアムに声をかけた。


「すぐ戻る」


「待っている」


 目と目で通じ合う感じの時間が幸せ。リア充万歳! 浮かれて戻った先で、じいや達を魔法陣で包む。残った騎士とジークムンド達傭兵を連れ、ウルスラ達に手を振った。消える直前、魔法陣に興味を持った見送りのヴィヴィアン嬢が何か叫んでたけど……聞こえませんでした。つうか、聞こえなかったことにしたい。


 何その、怖い実験予告。珍しい魔法陣だからって、すごい効果があるわけじゃないぞ。分析しても分解しても何も出てこないです。異世界のさらにゲーム内の文字だし、転移じゃなくて召喚用だからな。


 中央の国に帰るときは、シフェルと一緒に行って防護壁になってもらおう。心に決めて、北の国に降り立つ。転移が終わるなり消える魔法陣に、騎士は目を瞠った。そして……北の国にも魔術師はいる。彼らは目を輝かせた。


「第二王子殿下、ぜひご教授いただきたく」


「今の魔法陣ですが、異世界の文字でしょうか」


「どのような意味の言葉を使えば、設置なしで転移が」


 矢継ぎ早の質問に「あー、うん、その」と困惑の声を漏らしたオレに、じいやが笑顔で進み出た。

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