193.異世界の定番、再び(2)

 オレも腰のベルトから銃を抜き、装飾が施された飾り物だったと気付いて収納へ手を入れる。慌てて引っ張り出したのは「銃なら何でもいい」と願ったせいか、ライフルだった。


 茂みが揺れ、ヒジリが斜め前に飛び出す。ぶわっと毛を逆立てて威嚇するヒジリが、姿勢を低くして唸った。


『スノー、コウコ。主殿を守れ』


 聖獣同士に上下関係はないようだが、戦闘時は別らしい。コウコが腕に巻きついてシューと威嚇音を出した。短い足で歩いていたスノーが巨大化する。ドラゴンに飲み込まれた時の姿を再現し、巨体でオレの前に立った。


「スノー、邪魔」


 見えない。敵が見えなきゃ戦えないだろ! しかし彼は退こうとせず、盾になるつもりだった。それほどの強敵かと目を見開いたオレの紫瞳に、強い光が差し込んだ。


「くそっ」


 同じ状況で呻く傭兵の声が聞こえる。あれはジャックか。マロンが突然叫んだ。


『来ます! 後ろへ下がりますよ』


 言うなり、馬のくせにバックした。正確にはバックステップ踏んで飛び跳ねる。手綱を掴んでいたが、堪えきれずに背から落馬した。視界が確保されていない状況で受け身も取れない。背中を激しく打ち付け、声が出なかった。


 肺の空気が一気に吐き出され、息が吸えない。ひゅっと嫌な音を立てる喉が必死に空気を求め、窒息寸前のオレの身体が痙攣する……。


『主、ひとつ貸しだよぉ?』


 真剣味のかける声がして、胸にどんと何か衝撃がくる。続けて2度の衝撃を受けた肺が、大急ぎで空気を吸い込んだ。喉が痛いけれど、空気がこんなに美味しいと思ったのは久しぶりだった。西の飛び地へ誘拐されて泥吐いた後くらいの開放感がある。


 ごろんと寝転がって目を開くと、眩しい光は消えていた。代わりに唸り声と威嚇の音、何やら重量物がぶつかる音が響く。


『目がぁああ! の最高の場面だったのに』


 残念そうに呟くブラウは、胸の上に乗っていた。どうやら飛び跳ねて心臓マッサージしてくれたらしい。有り難いのに、何故だろう……感謝の念が素直に湧かないのは。


 香箱座りされてるからか? なんで苦しむ主人の上でマウント取ってるんだよ、お前。咳き込みながらブラウを退けた。まだ喉が痛いので、怒鳴るのは後回しだ。


 取り出した水筒の水を煽って喉を潤し、数回咳き込んで喉の調子を整えた。顔をあげた先で、小山ほどの何かが蠢いている。森の木々が邪魔で全体像が掴めないが、巨大な生物が複数いるようだ。


「今の、なに」


『うん? ドラゴンの群れだと思う』


 のんびり答えるわりに、青猫の尻尾が膨らんだ。威嚇の姿勢をとり、地面で巨大化する。命じる前に地を蹴ったブラウが、近くに現れた大きな手を爪で引き裂いた。

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