193.異世界の定番、再び(3)

「ドラゴンは異世界の定番っていうけど、再会は望んでなかったぞ」


 舌打ちして、落馬の際に落としたライフル銃を拾う。構えてみたが、やはりしっくりこなくて収納へ放り込んだ。愛用の銃を握り、銃弾を装填しながら状況確認を行う。


 縦に手を引き裂かれた痛みに、竜の巨体がのけぞり、グオオオォと叫んだ。その声は確かにドラゴンに似ている。スノーを飲み込んだ奴も、同じような声だった。やや低音なのは、前に見たドラゴンより大きいからだろう。


「スノーとコウコは傭兵の守りに入れ、ブラウはヒジリの援護を!」


 叫んだ声に4匹が動き出す。黒と青の猫化猛獣達は、意外にも連携が取れた動きでドラゴンを離れた場所へ誘導した。この間に立て直しを図らないとやられる。


「戦える奴は武器を手に集合!」


 無言で集まる連中は、多少の擦り傷を負ってたりするが骨折や重傷者はいなかった。リシャール達の部隊は前を歩いていたため、逆に無事という展開だ。長くなった部隊の後ろ半分を直撃したドラゴンは、ライアンの報告によれば4匹らしい。


 前に1匹相手に苦戦したオレとしては、被害を出さずに勝つ方法を考えるのは難しかった。あの時も運が良かっただけだし。


『ご主人様、魔力をください』


 袖を噛みながら意味不明な要求をするマロンに「好きにしろ」と吐き捨てて再び悩み始めた。突撃したら傭兵の中に被害が出る。しかし自分一人で勝てる数じゃない。戦ってる最中に後ろに回り込まれたら……ぞっとした。仲間を蹂躙される恐怖に身を震わせる。


 直後、馬に肩を噛まれた。


「つぅ……」


 ヒジリのように鋭い牙はないが、馬の前歯も結構強い。激痛に顔をしかめると、右肩をぬるりと血が滴った。


 マロン、好きにしろと言ったが本当に好きにする奴がいるか? この緊迫した場面だぞ? 苛立ちながら振り返ると――お前、誰!?


 知らない馬がいた。栗毛はうっすらと輝きを帯びて金色に見えるし、短い角は1m近い長さに伸びている。


「え? マロン、なの?」


 他に馬は連れてきていない。思わず尋ねたオレに、金馬は得意げに首を逸らして嘶いた。この姿なら、確かに金の一角獣と言われるのも理解できる。しょぼい栗毛の時は信じられなかったが、神々しい感じがして聖獣感がアップだ。


『ご主人様の血と魔力をいただきました』


「はあ、大したおもてなしも出来ませんで」


 混乱したオレは「ご馳走様」への返答を呟く。掠れた声はあまり遠くに届かず、変な顔をしたのはレイルとノアだけだった。すぐ隣にいたレイルが、絆創膏もどきをぺたりと肩に貼ってくれる。血の上から貼れるのが最高の利点だ。


『我らが主殿を傷つけるとは、許すまじ!』


 激怒したヒジリが空中を駆けながら、ドラゴン達の翼を攻撃する。逃走手段を先に奪ってから叩きのめす気だろう。だが、ヒジリよ。この場合相手が逃げてくれた方が助かるんだぞ。なぜ逃げ場を奪ったんだ……。

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