201.敵の敵はやっぱり敵だった(3)

「あ、こらまて」


 正規兵に呼び止められるも、ジャック達はあっさり包囲を突破して走り出した。その際の捨て台詞がこれである。


「俺らは休暇中だから~!!」


 中央の正規兵の視線が刺さる。くそ、オレのせいみたいじゃないか。間違ってないけどね、肩を落としたオレの頭を撫でたクリスティーンが指示を出す。


「我らはこれから南の民の保護を開始する! 邪魔する者らは排除せよ」


「「「承知しました」」」


 一斉に敬礼して部隊が動き出した。邪魔する者ら? 首をかしげると、王都の民を外へ出さないよう警護? していた兵らが、こちらに槍や剣を向ける。よく見ると南の衛兵と恰好が違うし、武器もデザインが違っていた。


「ああ、東の連中か」


 そういやオレ達に増援が来た情報をレイルが持ち込んだとき、南の国にも東から応援が来た話を聞いた。あまり重要視してなかったけど、混乱した王都から逃げようとする民を押さえつけてるのはよくわからない。ひとまず逃げて安全を確保してから、再び受け入れればいいのに。


「変なことやってるな」


「民は税を納める財産と考えたんだろう。逃がして難民になられても困るからな」


 レイルが興味なさそうにしながらも、的確に疑問へ答えを寄越す。この察しの良さと知識や考察の深さは、本当に一国の宰相並みだ。独立して組織を作り上げた才覚の片りんに、オレは素直に感嘆の声を上げた。


「へぇ。さすがレイル。よく知ってるな」


「お前が言うと嫌味に聞こえる」


「なんでだよ」


 えいっと叩けば、レイルが避ける。追いかけまわす姿にクリスティーンが吹き出した。


「そうしてると本当に仲がいいわね。私も向こうの手伝いに行ってくるわ」


 東の兵が作った囲みを突破した中央の兵が、逃げ出す民を誘導している。傷の手当もあるし、魔法が使える貴族は便利だろう……オレも手伝うか。ドラゴン作戦決行した責任があるから、最後までちゃんと後始末しないとね。


「キヨ、余計なことは言うな。中央が不利になるぞ」


「わかってる」


 ドラゴンは偶然来訪して、それを進軍したオレらが追い払ったことにするんだろ? 暴露するほど考えなしじゃない。オレがただの異世界人なら何を言おうと自由だが、北の王族で中央の皇帝の婚約者になるんだから、経歴に妙な傷は不要だった。


 卑怯? 上等だ。身一つで放り投げたカミサマに文句を言ってくれ。


 先に歩き出したクリスティーンに追いつき、凛とした佇まいの女騎士の隣に並ぶ。さあ、正義の味方を始めようか。偽善だって構わないだろ?

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