343.入隊試験? いいんじゃね(2)
オレがこの世界に来たばかりの頃、シフェル達との早朝訓練で使う予定だったペイント弾だ。当たると意外に痛く、真っ赤な色になる。ちなみにオレは最初から実弾だったので、使わずに保管していた。思わぬところで役立ったな。実戦さながらの緊張感が滲む中、レイルの弟子VS孤児院の子ども達の準備が進む。普通なら孤児院の子が不利だろう。
なんたって、レイルの組織は幼い頃から最前線だからな。東のアーサー爺さんの屋敷に情報を届けに来たのも幼子だったし、当たり前のように子どもも情報を拾ってくる。孤児達もここに収容されるまでは、大人の目や手を掻い潜って生き抜いた猛者ばかり。さらに孤児院で訓練されちゃったみたいだし?
小さい子達は巨大青猫に夢中だ。時折変な声が聞こえるが、巨大猫姿になったのはいい判断だよな。触れない子がいない。子どもは面倒と言いながら、意外と相性がいいんじゃないか。
「用意、始め!」
レイルの声に従い、中庭で戦闘が始まる。魔法の使える子が混じっているらしく、レイル側は地面を凸凹にして隠れる場所を作った。孤児は手早く地面に爆薬を仕掛けて吹き飛ばし、塹壕を掘って伏せる。戦場の塹壕より浅いが、伏せてれば十分使えるサイズだった。
「なんで爆弾?」
「ああ、年長組だけ支給されてるぞ」
おかしくね? ここ、孤児院だよね。親のいない子どもが身を寄せ合って、生き抜くための勉強や手に職を付ける……あれ? 間違ってない気がしてきた。生き残るのに必要な技術だし、それを活かして就職が決まったんだから。
「うちは魔法の得意なのが混じってるから、ちょうどいいハンデだ」
「いやいや、過剰戦力だろ」
庭がボコボコだぞ? まあ、聖獣ヒジリに頼んだら元通りだが、今まではどうしてたんだよ。模擬戦用のペイント弾が入った銃を構え、撃つ。サバゲーみたいで、見てる分には楽しい。
レイル側の子が被弾、直後に撃ち返され、ガッツポーズの孤児に当たる。戦場で拳握ってたら死ぬぞ。声援を送る孤児達をぐるりと見回し、元気で何よりと頷いた。声を張り上げて叫ぶ元気があるし、顔色もいい。仲間を応援する姿から、人間関係も大きなトラブルはなさそうだった。
戦ってる連中に視線を戻すと、すでに半分くらいは死体になってた。被弾は2発まで、そこからは死体役だ。わかりやすいように武器から手を離して伏せるルールだった。弾が噛んだのか、すぐに捨てて死体役の銃を奪った子が足に被弾する。だが相手に纏めて2発撃って仕留めた。直後に転がって移動し、1発被弾した奴を死体にする。
うん、いい動きだな。
「ストップ、ここで終わり!!」
絶滅するまで戦う必要はない。勝敗をつけるための模擬戦じゃないし、実力は十分に見られた。にやにやしたジャックが「もう一戦行くか?」と鬼のような提案をする。このくらい動けるなら、自分達が相手を務めても大丈夫そうだと判断したらしい。現金な連中。
「訓練は明日以降ね。まだ入隊前だから」
釘を刺しておかないと危ない。ノアがストッパーになると思うけどね。
「25人、全員連れていくよ! 明日から来る?」
今日は仲間とのお別れもあるだろうと思って提案したら、キョトンとした顔をされた。こちらも首を傾げてしまう。
「隊長、ここを直したらすぐ向かいます」
「隊長?」
「じゃあ、ボス?」
「ボス……」
繰り返しながら振り返ると、レイルが口を押さえて笑いを隠していた。肩がめちゃくちゃ揺れてるけどな? 声がちょっと漏れてるけどね。何を余計な教育してるのさ!
「レイルはしばらくタダ働き決定」
指示を待ってる子ども達を連れて帰ることになり、オレの孤児院視察は終わった。あっという間に荷物を入れたバッグを背負い整列する孤児の、行き届きすぎた躾に驚きながら、魔法で中庭を平らにする。内側が妙な手応えだが、何度も魔法で動かしてるんだろう。
ぞろぞろと遠足のように歩きながら、ふと気付いた。あれ? 今日って視察だけじゃなかったの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます