18.裏切りか、策略か(7)

「あそこだ!」


「捕まえろ」


 叫ぶ声が聞こえると同時に、音を気にせず走り出した。早朝訓練していて気付いたのだが、某国の雑技団並みの身体能力がある。手を伸ばして枝を掴み、身体を木の上に押し上げた。そのくらいで見失ってくれるなら楽なのだが、すぐに居場所はバレる。


「こっち、木の上だ」


 指差す男は黒髪の黒人だった。闇に溶け込みそうな黒さが、正直この場面では羨ましい。夜の隠密行動では、見つからないのが最強だ。


 サバゲーの経験を生かして、次から泥を顔に塗ろう。それなら見つかりにくい。自分の白い肌に眉を顰めながら、木の枝を飛んで移動する。忍者みたいで格好いい――出来た当初はそう思ったが、シフェルも出来たのがちょっと癪だった。


 悪戯して逃げる最中に披露してドヤ顔したら、追いかけるシフェルも出来てしまったという……あの時のバツの悪さは半端なかった。ついでに捕まって叱られたのは言うまでもない。


 幸いにして、下を走って追いかける黒人と黄色人種の男は、木の枝を走るなんて芸当はできなかった。


「オレって運がいい」


 にやにやしながら枝を渡り、収納魔法の中へ手を突っ込む。先日赤魔にもらった銃を引っ張り出し、次に銃弾を探して手を入れる。指先に触れた弾を掴んでポケットに放り込んだ。


 チュイン! 何かが鋭い音で掠める。靴の金具を掠った銃弾が上の枝を落とした。


「っぶね」


 見つかった後なので、遠慮なく声に出す。上の獲物は狙いにくいと習った。確かに当たらなかったけど、これ、ギリギリじゃん。一歩間違えたら、オレの足を貫通してるぞ。


 足を撃たれたら痛いに決まってる。茂みの前で膝をついて、しっかり狙う男に気付いた。黒人の方だ。彼が銃で狙っているってことは……進行方向を振り返れば、黄色人種の男が回りこんでいる。


 囲まれた? というほど切羽詰った状況じゃないが、逃げ場に迷う。雨で滑る枝を蹴飛ばして、左側の木へ移った。猿になった気分だ。


「くそ、猿みたいにちょこまかと!」


「撃ち落せ!」


 連携に慣れているらしく、2人は上手に先回りしながら追ってきた。つうか、やっぱ猿みたいだと思うんだな。この世界の猿も、オレが知る猿と同じようだ。


 それはともかく、撃ち落される気はない。魔力を込めた弾は魔力で防御ができた、よな? 習った内容を思い出しながら、自分の下に逆さまの傘をイメージした。固くて弾を跳ね返せる透明の……魔法は想像力が物をいう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る